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NHKスペシャル「看護師たちの限界線」感想②

※流行り病についての描写があるため、あまりそういった話題を得たくない方は閲覧をお気をつけ下さい。

前回も述べましたが、自分の職務として尽くしていた相手の生命がついえてしまうことについて看護師という立場の方々は常人より強くいなければならないとぼくは思っていました。

看護師たちの疲弊

続きの映像ではそれまで緊急外来で(緊急外来に配属されていたということはおそらく)甚大な被害をその身体に受けた患者ばかりを診てきたであろうことは想像に難くない阪井さんが精神を打ち砕かれ、病状として心身に支障をきたすレベルとなってしまったことがわかります。

Vの冒頭で泣く泣く(本当に泣きながら)欠勤を報告していた人はこのかたでした。もちろんそのような医療の最前線である現場で職務に邁進してこられた方々であるためそう簡単に折られることはないことも簡単に想像できますが、逆に阪井さんほど気丈なかたでもそのような状態になってしまうという例に漏れず集中治療室に所属する三十人のうち、5人は同様の状態となってしまった。

阪井さんは迷惑をかけてしまってすまない旨を話しますが、電話を受ける看護師長は(音声が途切れているため確証が得られたかのような言い方はしたくありませんが)はっきりと迷惑ではないよ、とは言わず阪井さんの言葉を受け止める。

看護師長の立場からすれば、「みんなに迷惑をかけてしまう」という言葉を否定することは現在引き続き日常の、通常の職務として業務にあたっているその「みんな」への負担が増えてしまうことについて何も感じない人みたいに自分で自分のことを客観視できてしまいかねないことであるため簡単には「迷惑ではない」とは言えないようにも思えます。

看護師長は「この状況をベテラン看護師の誰もが経験したことがないものであり、その場所から産出される感情も同時に経験したことがない」はずであると分析します。つまり実際につらいことが目の前で毎日のように起こっているにも関わらずその原因がわからない、どころか考える時間さえ創出できない、同僚である他者とも共有するための時間が持てないのに、それでも自分が手をかけた人々の命が次々になくなっていくという環境に慣れられる人なんていない。

他部署への応援要請

同2021年1月には感染者急増で2回目の緊急事態宣言が発令される。看護師長は他部署にICU周りの長丁場業務遂行のためには確実に一人ひとりが1日ずつ(ニュアンスが少し違うかも知れません)休養せねばならないと全社会議のようなもので訴えかけます。

他部署からは9人が応援に集まりました。現在休業している部署がいくつかあるそうなので、そちらから人員を割いた結果同状況となったのかも知れない。

休職予定者や退職者が呼び戻され、中には妊娠7ヶ月となっている人までいる。今年5月に出産予定であるということです。妊娠中であることを鑑み、集中治療室内には入らない・患者と直接対面はしないが最前線の看護師たちを支える現場に割り当てられる。家に帰れば夫と1歳の娘がいる。この久保さんは元同僚たちが疲弊している環境がとてもつらく、手伝わずにはいられなかったそう。

さらには先代看護師長も呼び出された。「高齢者だけどもともと丈夫だから平気だろうと思った」旨を話す姿に長年の経験で培われた人智を超えた想いを汲めるような気がします。

先代看護師長は冒頭に登場した集中治療室勤続3年の京河さんにとって現場の恩師でもあった。京河さんは先代の一時復帰を素直に喜び、また先代はきっともう耐えられないほどつらいだろうなという雰囲気を感じ取ったのか、今の現場をどう思うと訪ね、さらに素直に京河さんはもう疲れてしまったという旨を遠慮なく話す。先代は職務とはいえ、重傷者と実際に対面するICU内に入れる京河さんの気概を讃える。

先代は現役の頃からトップクラスの成績で医大を卒業し、自分の担当ではない患者が困ってそうであればすぐに駆け寄っていくような、自分の実力でひとりでも多くの患者を救うことを目的としていた彼女を高く評価していました。同時に、そこまでしてしまってはいつかどうにかなってしまうというような危うさを感じていた。

ぼくはただ病院のサービスを受けるだけの側にいることしかないため、そのような病院というビジネスサービス提供の場における常識みたいなものにそれはそうか、あちら側がそう判断していてもおかしくはないよな、と察すると同時に、その内部にはいやそれはそうだけどそんな場合でもこう動かなければ職務を全うできているとは思えないよな、という生き方をされている方がいることに驚かされました。

また同時に、そのような感情をもって生き物の生命の存続を決定づける内容の職務にたずさわっている人がいるのであれば、さらにその人にあらゆる「持て余し」のようなものが集積されてしまうのであれば、いつか折れてしまってもそれはあまりにも自然なことと言えてしまうようにも感じました。なんでもしてくれるような善人に集まってしまう負担のことをぼくらはどういった言葉で表現し、解決に導けばいいのでしょうか。

この番組の冒頭ではこの京河さんが辞表を書いて、局に提出してしまいます。また前回も書きましたがこの病院は東京女子医科大学病院であり、先日このようなニュースがありました。

このようなニュースとは上記東京女子医科大学公式サイトにおけるニュースリリースの中で触れられ、否定されているためリンクを設置しないことにしました。運営に支障がないのであれば問題はなさそうです。

今回取り上げたNHKの取材に応じた意図が何かあったのだと思います。それはこれからわかることなのでしょう。

前回に引き続き、心の安寧を保ちながら感想を書いているためまた次回以降に続きます。お読みくださりありがとうございました。


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