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ネテロと薔薇

HUNTER×HUNTERが好きなのでよく読み返します。ヘッダ画像をお借りしています。

そして最近たまたまメタファーまみれの本を読んでしまい、それ以前に読んでたHUNTER×HUNTERについて改めて考えるようになった。

それは二項対立といいますか……ある一定の対比構造が芳しいということでした。つまりゴンとキルアの正義性と悪性、ゴンやキルアも含めた協会側とそれ以外の世界に仇なす連中だ。

協会とそれ以外の連中ってのは話が通じない。敵同士なんだからそりゃそうでしょう。だけどよく見ると違ってて、その事実は主に正義である協会側を戸惑わせることになった。

ネテロの死とネフェルピトーの死が顕著ですね。ネテロはおおよそ「勝てるわけねえ」と自ら評価したネフェルピトーの上司であるメルエムと戦わなければならなかった。めっちゃ悲壮感しかない。老いぼれは死んで退場する運命なのかと読者は思えてしまう。

だって勝てるわけねえと歴戦の常勝ネテロの経験と何かしらのプロ意識から算出された相手より確実に強い奴と戦わなきゃならないんですよ。勝てるわけが……

実際は序盤圧倒していた。ように見えた……そうじゃないと読者も飽きちゃいますしね。。読者も知らないネテロの奥義みたいなものが射出されてもなおメルエムはぴんぴんしていた。それまでにネテロの手なり足なりを奪っていきやがった。

ぼくは悪役に全く思い入れできないのでネテロに勝ってほしかった。結局ネテロ側つまり協会側つまり、「(少なくとも人間に対して人間の感性でいうところの)悪意を人間側に向けた外来生物であるキメラアントを脅威とみなして絶対に駆除しなければならない」人間側は勝つわけですが、その勝ち方はおおよそヒーローのそれ、正義のそれとは言えない(ように見える)形だった。

悪役に肩入れできないぼくとしては全然OKだったんだけど、「生物を必ず死に至らしめる薬剤」をネテロの体内に仕込んでそれを使ってキメラアントをぶっ殺すという方法を打ち出した人間側の悪意に、読者は自分の正義感が風化しそうになる。そんなん「勝ち方」といっていいのか?

毒性の爆薬でネテロが犠牲になることなんて織り込み済みであり、結果アントも惨たらしく確殺できる。これってあんまそういう例えにしたくないんだけど、戦術核で敵国をぶっ殺す国みたいにも思える。つまりアメリカと日本ですね。

日本という悪意がいて、アメリカからしたら自分が正義だから日本は確殺しなけりゃならなかった。

最初は人道的に戦いたかった。でもどういうつもりか知らないけど戦術核というどう考えても禁じ手みたいなアイテムで確殺といいますか死体蹴りみたいな行為をして勝った。

これはアメリカに対して悪意を込めた見方をした場合のケースです。別にぼくがそう思ってるわけじゃないし、これ系の議論なんて誰ともしたくない。

広島や長崎には夥しい数の命があり、それぞれの大切な暮らしがあった。

メルエムにもネフェルピトーやモントゥトゥユピーやシャウアプフみたいな仲間がいて、最初はゴミみてえに扱ってた。けど、小麦というメルエムが愛すべき少女と出会うことにより本当に大切なものとは何かについてメルエムが学習することになって、ネフェルピトー以下の部下を仲間とみなして大切に扱うようになった。直後に小麦もろとも死んだけど

思いっきり正義であるはずの人間側が非人道的な勝ち方をしてい、意味不明で悪意しか感じられなかったはずのキメラアント側が人間すら巻き込んだ形で尊厳ある死に方をしている。ネテロの死に方との対比が凄まじい。

でもネテロが悲惨なのは死に方だけであって、メルエムがもしかしたら話が通じそうな良い奴なんじゃないかという気配は敏感に感じ取ったものの、相応の覚悟をしていたんだろう、あるいは体に薔薇を埋め込んだ影響なり、持病があったなりで永くなかったりした事実を伏せていたのか、それらさえも越えた覚悟でメルエムのもとにいたのかは不明だけど、とにかく「情に絆されずに勝った」。

だからネテロも死に方は第三者に操作されたような酷い尊厳破壊ではあったものの、死に至るまでの生き様は限りない尊厳に満ち溢れていたのだ。メルエムを殺したのはネテロであるといえるけど、ネテロからしたら自分の実力でメルエムに勝ったとは思えないんだろうと思うととてつもない哀愁がある。

一流の戦う者であるにも関わらず、誰とでも戦える念の力を恐ろしいまでの年月に渡る鍛錬で身につけたのに、戦術核みたいな薔薇でキメラアントを皆殺しにしろ、というフィクサー的な連中の言いつけに従って死んでいってしまった。これはあまりにもプロである。戦う者としての尊厳はある一定の目処をつけた段階で捨てろという命令にコンセンサスを得てしまったのだ。ハンター協会の会長なんてリーマンに過ぎないのさ、とネテロが草葉の陰で言っているような気もするし、そんな体制でええんか?立ち上げれよと全ハンターたちに言っているような気もする。

むしろそのようなメッセージが残せる可能性すらなかったら、薔薇なんて使う気にはならなかったんじゃないだろうか。でもあるいはそうだったとしても、頭がいい連中とかと一緒にキメラアントによる人類滅亡シナリオを試算した結果、薔薇を自分がやるしかない結論に達したのかもしれない。せめてもの抵抗として、後塵のハンターたちにメッセージを残せるならと最後まであがいたのかもしれない……それができるなら薔薇使ってやるよ、と。

無駄死にだけは許されなかったし、薔薇を埋め込んだ時点で絶対に協会側の勝利は確約されていたわけだ。あまりにも悲壮だ。

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