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女を支配する薬を宣伝する女

小ぎたない恋のはなし:Ex11

前回

僕は鬱々としている自分を認めたくなかった。この「認める」とは、観て留めることを指す。認める認めないとかはどうでもいい。

そうだ。僕はとても鬱々としている。だけど朝の電車に乗っている状態で鬱々としていない人なんているだろうか?それでも配信プラットフォーム内で時間など構いなしにその辺のゲームで遊び倒しているストリーマたちは電車になど乗る必要がない。

彼/彼女らはゲームで遊んでいるだけで懐に金が入ってくるようになっているからだ。そしてその環境をずっとキープさせてあげられるように支援する人間たちがいるからだ。僕はとてもそんな行為に支援なんてできそうになかった。

もっとも、僕は別にそれをよくいる年配者のように「職業的行為などとは呼べない」とまでは思っていなかったが、まるでクラウドファンディングと同じシステムで金を持たない人々から集金して、その環の中で結局最強の金持ちになるという食物連鎖のような関係性について何をどのように同調すればよいだろう?低所得者層から集金して生き延びるやり方を賛辞すべきだろうか?

僕は別のライブストリームにスキップする。僕はそのプラットフォームにすら潤っていて欲しいとは思えないため、何らか優遇されるための機能を得るための課金などしない。当然観たいものを観ようとすると「無料の客に好き勝手はさせない」とでも言いたげに圧倒的物量で広告が流れる。

実際、その広告をどけるためには「手指を動かす」という労働が必要だ。その指の動きすらもどの広告でどのようなタップの仕方で飛ばされているか、つまりはどんな広告にこのユーザは嫌悪感を抱き、あるいはその逆の行動を取ったのであればどのような広告にならば好感を抱いたのかという効果測定に使われてしまう。

アプリ上でユーザが何かしらの能動的行為を噛ましてしまうと、すべからくそれらは全部企業を潤すための資料として利用されてしまう。

つまり「何らかのストリーマを応援したい」という形で今風の「好き」を表明しようとしたところで、その行動はプラットフォーム側にとっての「指標」として利用されてしまう。

僕が誰かを応援して金を渡したら、こういうユーザはどのようなチャンネルに対して好感を抱き、金を贈るという好意的行動まで起こすようになるのか、という研究用資料となってしまう。

別に僕はプラットフォームを応援したいとは微塵も思わないのだ。そしてプラットフォームの改善点を効果測定するためにある、目の前のCMを見る義理も義務もないのだ。

目の前のCMの内容は目を背けたくなるようなひどいものだ。しかしながら、目を背けたところでその音声は永遠に流れ続けるのだから、もはや目当てのストリーマを人質にした拷問だ。きちんと目を背けず、せめて音量をゼロにして「広告を飛ばす」というボタンが出現するまで画面を凝視しなければならない。

広告CMの内容は「合コンで女のグラスに注げば相手が寝るから、合法的にラブホに連れ込める薬」だった。そんな広告を流した金で栄えるプラットフォームは健全と呼べるのか?そしてどこらへんが合法なのだろう。

僕が一番目を背けたかったのは音声だった。仕事がない女の声優が声を当てていて、ピッチ操作ツールで自己が収録した声の高さを下げられ、男がその睡眠薬を使って目的の女を落とすぜという台本を読まされている。

女の尊厳を踏みにじるために存在するような商品を、同じ女が自分が生きる金のために仕方なく宣伝している。「女を嬲り者にするための商品」を売るための肯定過程に、その商品を使った嬲りの対象となる女が組み込まれているこの国の資本主義システムについて僕は思う。

「西の国を滅ぼすために売られている兵器」を造る西の国の軍事企業が西の国のタレントを使って打つCMを、東の国の人間が観て買っている。

次回

※こんなnoteにお借りして申し訳ありませんがヘッダ画像をお借りしています。

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