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伊東のTUKUNE 12話 恐怖の魚群探知男

▼前回

https://note.com/fuuke/n/n03e9798b9fd6

▼あらすじ

進学した僕は通学路にあった焼き鳥屋である ”伊東のTUKUNE” で買い食いしたいがためにヤンキーになった。焼き鳥屋の前には常にヤンキーがたむろしていて、なぜか当時の僕は自分もヤンキーにならなければ買い食いができないと思っていたのだった。

表層的存在として表層的食欲を満たした彼女(ハムスター)は僕の手のひらの上で仰向きになってまるで死んだように過ごしている。僕は彼女の膨らんだ腹を指で撫でずにはいられなかった。

「おっ」

僕が撫でると、彼女の四肢はぞくっと動いた。僕は果たして表層的存在に対して影響を及ぼせるのかどうかがわからないままだったけど、及ぼしたのだった。あるいはそれ以前に彼女が僕の胸元に隠れていた折に飛び出して、腕を駆け抜けた時点で別にお互いに干渉できないわけではなかった。

「おんっ」

彼女は僕の指先で身体の輪郭を撫でられて、動物アニメの動物のような声を出していた。彼女が動物なのであればそれは当然の帰結であるかもしれない。

「わたくしの体躯を弄んでいる場合ではありませんよ。携帯電話然とした板を造るために黒い巻紙を買わなければ」

僕は手のひらの上の表層的小動物から1コイン屋への出動を促された。さっきは貼り付け剤と言っていたのでは、と僕が言うと、彼女はいちいち物の名前を覚えていられないのだと話した。

¶  ¶  ¶

「何か……あなたにも伝わる言葉で説明するのであればオーラのようなものでしょうか。それはもちろん霊的な、スピリット的なものではありません」

彼女は視界内において投影された(つまり自分が認識した)生命について、全てが同色の野菜のように見えるらしかった。つまり僕だろうが村上紫だろうが、すれ違った高齢者だろうが警官だろうが、果ては空中に浮かぶ微生物だろうがそれこそ地中の野菜だろうが、同じ色の何かに視えるらしかった。

そして、それら生命のどれも等しく同程度のオーラ量を放っているという。野菜だろうが警官だろうが等価値である。プライム上場企業会長だろうが1コイン屋店員だろうが、僕だろうが同じに見えるらしい。だから彼女は名前が覚えられないというか、覚えても意味がない。見回してもそれがどの生命を指しているかわからないから。だから彼女は、僕が認識できなくならないように僕から離れられないのだという。村上紫のもとにいた頃はどうだったんだろう。

「あなたのお名前を覚えることに対してわたくし何の抵抗もないのですが、いつかお別れした場合にそのお名前を覚えていても仕方ないわけですね」

僕は彼女に僕の顔も認識できないのか訊いた。どうやらその通りらしい。

「わたくしがさっき頂いた、かつて魚だった生命をこね合わせた物体はすでに失われた命であるため認識できました。あなたはわたくしが意地汚く、好物のお魚を食い求めにあなたのもとへ来たのかと思うかもしれませんが……それは違うのですねぇ」

そして彼女はベフーとなにか口から気体を発したようだった。僕は将来……伊東に習って焼き鳥屋ではなく捏ね屋を始めるべきなんだろうか。

▼次回

▼謝辞

(ヘッダ画像をお借りしています。)


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