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伊東のTUKUNE 13話 脱色のすゝめ

▼前回

https://note.com/fuuke/n/n48d8f76636dc

▼あらすじ

進学した僕はなんとなく不良になり、恥ずべき人生を送っていた。ある日の帰り道、僕は村上紫という少女に出会う。そしてなぜか紫の兄としてアルバイト面接の同伴者にさせられ、お礼にしゃべるハムスターをもらった。彼女は生命を何らかの波動で視認するらしい。

僕は自分が特殊な髪色をしていることを思い出した。彼女が無機物――というか生命が宿っていないもの―――を僕らと同じような構造体として認識できないのだとしても、髪束にはあまり(割と、多分)生命が宿っていないから僕の髪色で僕と離れても僕を認識できるんじゃないだろうかと思ったのだった。

「良い質問ですが……結論から言えば見えないんですねえ」

僕の手の中にいるハムスターは食いすぎて幻想的表層的生物が発するとは思えないような、胃の内圧から空気が逆戻りして口からはき出される現象を繰り返しながら話していた。

「でも確かに、言われてみれば」

彼女は(表層的存在のハムスターは性別がないみたいだが彼女と呼ぶべきらしい)重そうな腹を気にしながら、あるいは全く気にしていないように僕の腕を再びつたい、僕の耳をひっかきながら頭に登ってきた。

「ざくざくしますね。これは髪を痛めている証左」

僕はブリーチで髪を脱色していた。これには理由がそれなりにある。

「生命体のオーラとはわたくしの視認範囲でその外観に沿って形作られており、その外郭と外側の境界は著しく曖昧に見えます。だから体毛のような外郭のちょうど接合面に属す部分はうまい具合に見えるような見えないような気がします」

果たして彼女は僕の髪の色がわからないようだった。僕の生命の色と髪の色の違い(僕の生命に色はついているのだろうか?)すらわからないのではないだろうか。いわんやその境界を見極めるなど。

僕は頭の上にいる彼女の重みを感じながら(記憶が曖昧だから何とも言えないけど、彼女に重みなんてあったのだろうか?でも彼女が僕の体をよじ登る時に、爪で耳を引っかかれたことはこのように覚えている)、もう一度彼女の腹を撫でてやりたい気持ちになった。そこでもう一度僕の手の上に戻ってくるように促したが―――――

「このごわごわ感が割と気に入りましたねぇ」と現状への満足を示されてしまい、手のひらの上に戻しづらかった。

村上紫のそばにいた頃は、彼女の頭に乗らなかったのかと聞くと、

「前宿の方ですか(彼女は当然、村上紫の名前を覚えられなかったから、村上紫のことをそのように呼んだ)。前宿の方はわたくしをおハムとは認識していないはずです。あなたへの報酬としてわたくしを渡しましたよね」

そういえば、村上紫は僕に彼女を渡す時に「これ」と呼んだ。「これをあげます」と。彼女は、人には彼女の姿がハムスターには見えていないのだという。でも、次に例えば村上紫に再会し、僕の頭の上に彼女が乗っていた場合、村上紫の視覚に対して彼女の存在が確定して

「多分おハムに見えることでしょう」らしかった。

▼次回

▼謝辞

(ヘッダ画像をお借りしています。)


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