スクリーンショット_2019-05-11_22

卒業研究 『刺すために生きる ―男と女を破滅に導くエロス権力の正体―』

これは、私が横浜国立大の精神分析ゼミで卒業時に書いた卒業論文です。

けっこう変なタイトルだと思います。もっと無難で、よくありそうな内容にすることも出来ました。

でも、「どうせ書くなら、何気ない内容で終わらせたくない。本気で書きたい」と思い、命を削る覚悟で書きました。

結果、精神分析を使った私小説のようなものになりました。

「そんなの卒論として認められるのか?」と思う方もいるかも知れません。でも、ちゃんと受理されるどころか、教授には、「今年一番の作品だった」と言っていただけました。

自分の内面を吐露して嫌われたらどうしよう、友達いなくなったらどうしよう、と不安もありましたが、意外と「面白かった」「鳥肌が立った」と褒めてくれたり、読んだ後も関係を継続してくれる人が多くて驚きました。

せっかくなので、noteで公開します。本当に読みたいと思った人だけに読んでほしいので、有料にしました。

桐野夏生とか中村うさぎとか、女性作家が好きな方は楽しめると思います。

プロローグ

物心がついた時から、私を動かすのはエロスだった。

幼稚園に通う女の子だった私が欲していたものは、夜十時台のバラエティ番組に写る巨乳のグラビアアイドル、本屋の成人向け雑誌コーナーでの立ち読み、親戚の家に落ちているスポーツ新聞に連載される短い官能小説。すべて、大人にばれないように、こっそりと欲望した。

歯医者で初めて読んだ少年向けマンガの衝撃を鮮明に覚えている。戦闘、冒険、友情、仲間といった暑苦しいモチーフばかりが並ぶ分厚い雑誌。その中に異質な空気を放つ、ピンク色を想起させる丸みのある絵柄のページを見つけた。そこには求めていたものがあった。可愛らしい童顔と豊満な身体を持つ、みずみずしい女子高生。興味のないふりをしてかっこつけている冴えない男子高校生が、彼女たちのいやらしく爽やかな魅力に腰砕けにされる。絵柄とストーリーを記憶し、何度でも頭の中で反芻した。

白い肌、大きな胸、細い手足。くびれ。「私もいつかああいう身体になれるのだろうか」私は物心ついた時から、こういった性的なパーツに視覚的に魅了され興奮を覚えるステレオタイプな「男」であり、魅力を手に入れ男性に選ばれたい「女」だった。「女は、溢れる魅力で男性を操る生き物だ」幼いながらにそう信じて疑わなかった。わたしもそれになるのだ、と。待ちきれなかった。周囲にいた男の子に勝手に恋の駆け引きを持ちかけた。胸にタオルを詰めて、グラビアアイドルごっこに嫌がる妹を付き合わせた。豊満な身体の魅力に誰もが釘付けになる。視線を、注目を浴びる―。そんな魅惑の力を持った存在と自分を重ね合わせた。はじめから私はエロス権力の虜だったのだ。

エロス権力は、美しい者だけが持つことのできる性的な力だ。一般的に権力と言われるお金やケンカの強さ、肩書きといったものとは違う。美さえあれば、言葉のやり取りも関係性もなしで強者になることができる。本能に訴えかける力を持つエロス権力が人々を振り回すのを止めることはできない。私は暇さえあればエロス権力を持つ存在を理想像として構築し、自分を同一化した。

しかし私の欲望はそれだけでは終わらなかった。
私は、自分でもわけのわからない倒錯した行為を繰り返した。何もかもを凌駕するはずのエロス権力が、男の暴力性によって破壊されることを望んだのだ。

この続きをみるには

この続き: 25,420文字

卒業研究 『刺すために生きる ―男と女を破滅に導くエロス権力の正体―』

ひらぴす

1,900円

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
うれしいです。好きです。
11
文を書く20代女。会社員。札幌から横浜へ、横浜から東京へ。 大学で精神分析を学んでいました。エッセイ、日記、メモ、などあまり有益じゃなさそうなことはnoteに残します。 ブログ ▷ https://hirapieces.com/challenge/

こちらでもピックアップされています

美と権力
美と権力
  • 12本

「女は存在しない。」 精神分析学者ラカンは言いました。では自分は何なのか。

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。