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夢の秘法―セノイの夢理論とユートピア (1991/11/28)/G.ウィリアム ドムホフ【読書ノート】

夢をあやつって幸福に暮らす人々…….一人の人類学者の論文が,平和と幸福を願い人間の意識を拡大しようとする60年代アメリカのムーヴメントに影響を与えた.ユートピアの探求をめぐる鮮やかなアメリカ文化論.
夢をコントロールし、平和に暮らす未開の人々について報告した1人の人類学者の論文。この論文が、平和と幸福を願い、人間の意識を拡大しようとする60年代アメリカのムーヴメントに大きな影響を与えた。はたして、夢はコントロールできるのか。そして、その効能は?気鋭の社会学者がアメリカ文化を見事に照射する、エキサイティングな謎解きの旅。キルトン・スチュワート「マラヤの夢理論」を収録。

『夢の秘法―セノイの夢理論とユートピア』は、マレーシアのセノイ族の夢コントロールに関する理論を扱った衝撃的なリポートを提供する。
この本は、かつてセノイ族による夢コントロールのメソッドを広めた研究者の理想主義的傾向を浮き彫りにし、そのメソッドが実際には存在しない架空のものであることを明らかにする。著者は、夢を巡る話し合いや子供への夢教育ではなく、土俗的な夢信仰や夢治療が実際に存在すると指摘し、スチュワートの思想傾向や催眠術による夢の採集に言及する。

六十年代の自己コントロール幻想に憑かれたアメリカの意識変容ブームを背景に、この時代の社会状況を冷静に見直す意図を持っている。しかし、セノイの現地調査を行わず、引用や又聞きのみに頼る点は物足りない。夢の創造性を認めつつも、フロイト、ユング、ボス、パールズの理論を列挙するに留まっている部分は、読者にとってはあまりピンと来ないかもしれない。

総じて、夢と超能力の研究が似通っているという視点から、夢の研究者と超常現象の研究者の立場を探求するこの作品は、研究対象そのものよりも、それを追う人間たちの足跡に興味を持つ読者には魅力的である。ベトナム戦争前後のアメリカの精神世界探求ブームの中で注目されたセノイ族の夢理論メソッドについての新たな解釈と批判を提供する一方で、セノイ族自体の知名度の低さが理解の障壁になる可能性もある。

キルトン・スチュワートの「マラヤの夢理論」はマレー半島にすむセノイ族という部族の夢の解釈の方法と、共同の瞑想状態における夢の表現を扱ったものである。これによると、セノイ族は夢の解釈を子どもの教育の大切な手段として用いるという。例えば、子どもが落下する恐怖の夢を見たとする。すると大人はそれをポジティヴにとらえ、より夢を具体的にみるように教え、最終的には落下という恐怖の夢を飛翔という愉悦の夢に変えるというのだ。
 さらに夢見の共同幻想のようなものがあり、現実の世界の問題の解決に役立てているという。次のような描写がある。
 ある若者が野生の瓢箪の種を持ってきて、仲間たちと分けて食べたとする。この種は下剤の効果があり、全員がおなかをこわしてしまった。この若者はすまないと恐縮して、種が毒だったのではないかと疑う。その晩彼が夢を見ると、瓢箪の種の霊が現れて、食べた種をもどさせ、この種は病気の時の薬としてのみ価値があるのだと説明する。それから、瓢箪の霊はこの若者に歌を与え、目が覚めたときに仲間に見せられるように、再び集団の中で認められ、自信を取り戻せるように、踊りを教えた。この夢に、例えば、それ以来、我々の村では瓢箪の種を病気の時に薬として使用するようになった。
というような結末が加わればこれは立派な神話となる。もちろん、この薬を用いるときには始源の状態を再現する。つまり、瓢箪の霊力を具現する霊が現れて踊りを踊るという真似びをするわけだ。これは端からみると集団でトランス状態になっているように見える。これがマツリだ。だからセノイ族の夢から神話まではあと一歩というふうに見える。もしかしたら夢が文芸の発生に関わっているとまで言えてしまうかもしれない。
 我々日本人もこのような夢見を解釈し社会の役にたてるといった文化を持っている。すぐに思い出すのは初夢である。「一富士二鷹三茄子び」といわれるように初夢には目指すところがあり、また夢見を家族で語り合うことで一年の吉凶を占い、一年の生活の指針とする。

https://www.asahi-net.or.jp/~et2t-sgmr/11no1.html


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