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知の体力(2018/5/16)/永田和宏【読書ノート】

「答えは必ずある」などと思ってはいけない。
〝勉強〟で染みついた呪縛を解くことが、「知の体力」に目覚める第一歩になる。「質問からすべては始まる」「孤独になる時間を持て」「自分で自分を評価しない」「言葉にできないことの大切さとは」――。
細胞生物学者にして日本を代表する歌人でもある著者が、これから学ぶ人、一生学び続けたい人たちにやさしく語りかける。自力で生きぬくための本物の「知」の鍛錬法。


I部 知の体力とは何か

1 答えがないことを前提とせよ

大学を高校から切りはなす/ 正解は一つなのか/ 答えのない問題/ 定石では太刀打ちできない/どのように自分で考えられるか

2 質問からすべては始まる

私が大爆発するとき/ プレゼンの心構え/ 以心伝心の功罪/ 能動的に聞く/ 先生だって嘘を言う/ ヒトの全細胞数は60兆個ではなかった/ 授業に教科書はいらない

3 想定外を乗り切る

「知の体力」を過剰なプレスリリース/ 何のために勉強するのか/ 学習から学問へ/ 最後の教育機関としての大学/ 想定外に向き合う知力/ 「わかっていないこと」を教えたい

4 なぜ読書は必要なのか

ちっぽけな私は実は凄い奴なのだ/ 「何も知らない〈私〉」を知ること/ 〈他者〉の発見/ 生命は自然に生まれる?/ 科学的な思考法の基本/ パスツールの「白鳥の首フラスコ」

5 活用されてこその知である

しまい込まれた知識/ コラーゲンを飲む/ アウトプットへの訓練/ 知のスペクトル

6 〈私〉は世界とつながっている

永田流、短期派遣システム/ 英語嫌い/ 無用のへりくだり/ 学んでから始めるか、始めつつ学ぶか/ ここだけが世界ではない

II部 師弟関係はどう結ぶものなのか

1 落ちこぼれ体験も大切だ

大学の教師が親切になった/ 三十苦に遭う

2 多様性にこそ価値がある

アクティブラーニング/ 教室じゅうを歩き回る/ とにかく聞いていく/ 「いい先生ばかり」の胡散臭さ

3 先生にあこがれる

岡潔の残したエピソード/ 研究への情熱が学生に感染する/ 「パチンコ必勝法を教えたるで」/ 授業は商品か/ 「何を教えるか」よりも「誰が教えるか」/ 先生で志望する大学を択べるか/ 名著の値段

4 大学に質を求めるな

大学の品質保証/ 企業・社会の求める人材とは?/ 総理の言う「職業教育」/ 「らしく」の蔓延/ 「らしく」は同調を強要するミームだ/ 違っているということから

5 親が子の自立を妨げる

大学から親を駆逐しよう/ 卒業式で親も卒業/ 子でなく親の問題/ 繰り返される失敗のなかにこそ

6 価値観の違いを大切に

「ヤバイ」だけではヤバクない?/ 特殊な悲しみ/ 予測変換機能 / ヘンな三人組

7 自分で自分を評価しない

妬みのなかの敵意/ シンデレラの起こした変化/ 「私などとてもとても」/ 自分を位置づけない/ ぼっち席/ 本来ひとりでいるもの

III部 思考の足場をどう作るか

1 二足のわらじには意味がある

身の縮んだ人生/ 研究室の御法度/ 元気をなくしたわが子

2 みんなが右を向いていたら、一度は左を向いてみる

負のフィードバック制御 / われわれは弱い / 「それらしい」言葉の嘘くささ /言葉は究極のデジタル / コミュニケーションは、アナログのデジタル化

3 メールで十分と思うな

300通のラブレター/ メールは思いを伝えるか/ 言葉にできない/ 待つという時間 / 思考の断片化

4 ひたすら聞きつづける

受ける側の覚悟 / 妻が望んでいたこと/ 河合隼雄の極意/ 聞いてくれる存在 /
「それは無理」が摘み取るもの

5 「輝いている自分」に出会うには

特別の〈他者〉/ 伴侶となるべき存在

あとがき

深い学びの背後には、研究者としての鋭敏さと、大学の講義室での経験が刻まれている。本書を開くと、その両方から生まれた多くのエピソードに、読者は引き込まれるだろう。学びの過程で「答えは必ずある」という固定観念に囚われがちな「生徒」たちへのメッセージは、新しい「知の体力」への覚醒を促す。そして、それはただの学生だけでなく、ビジネスの世界で戦う者たちにも、耳に届くべきものだ。

この著者はただの研究者ではない。細胞生物学の深い知識の背後に、日本を代表する歌人としての繊細な感性が輝いている。その結果、本書の中には彼の豊かで美しい表現がちりばめられている。著者の心地よく、やさしい語り口で綴られたこの物語は、紙の上で、そしてあなたの心の中で響くこと間違いなし。ぜひ、この旅にお供してほしい。

知の体力と大学の役割

  • 京都産業大学の新学部長としての著者の経験から、大学新入生が「生徒」から「学生」への自覚が乏しいと感じた。

  • 大学の役割として、正解が存在する教育から答えのない実社会への緩衝帯を提供することの重要性を説明。

質問の力

  • 研究発表で能動的に聞き、質問する重要性。

  • 質問が知識のインプットと自分の知識体系との接続を促進する。

想定外の出来事への備え

  • 未来の予測の不確実性。

  • 想定外の問題に立ち向かうための「知の体力」の必要性と、それを育む方法。

読書の重要性

  • 読書や学問の意義:自分の新しい発見、自己の相対化、他者や他の時間との関係性。

  • 読書が個人の世界との関係の基盤を築く手段。

知識の活用

  • 知識は活用されることで価値を持つ。

  • 現実の問題への知識の動員とその重要性。

世界との繋がり

  • 著者の大学院生への海外研究所派遣の経験。

  • 世界との繋がりの実感と、その経験がもたらす変化。

挑戦と成長

  • 大学での「落ちこぼれ」体験の価値。

  • 可能性への挑戦と、その重要性。

大学の多様性

  • 大学の多様性と教師の個性。

  • 教師と生徒の関係性と、その中での価値判断の経験。

教師への尊敬

  • 教師の多様性、特に非伝統的な教師の存在。

  • 「知」への尊敬と、その尊敬が教育の質を決定する可能性。


大学の質についての誤解

  • 現代の大学は質が求められる一方で、その求められる質は主に社会の要求に応えることだけに集中している。しかし、大学の核心は学問の探求にあるべきだ。大学は学生の未知の才能を開花させる場として機能すべきだ。

親の過度な関与の問題

  • 大学の式典において保護者が当たり前のように参加する現状には、何かが疎かにされているように感じる。問題は子が親離れできないことより、親が子から離れられないことにあるのかもしれない。真の教育は、自ら考え行動する力を培うことに意味がある。

言葉の多様性の価値

  • 若者の言葉が均一化されているように感じる今、言葉の多様性を保持することの重要性に目を向けるべきだ。自分の感じることを正確に伝える能力は、人との関係性を築く上で不可欠だ。

自分の評価の見直し

  • 他人との比較からくる感情は、自分の可能性を縮小する危険がある。自分を他者や基準と比べるのではなく、自分の本質に焦点を当てることの大切さを認識すべきだ。

広い視野を持つことの大切さ

  • 人は狭い視点に囚われがちだが、その隣には別の視点や考え方が存在する。複数の視点を持つことで、物事の真実に近づける。

多様な意見を受け入れる

  • 社会の流れに流されやすい私たちにとって、時折異なる方向を見ることは有益だ。言葉にはその背後にある意味や感情を理解することが重要である。

即時性と深いコミュニケーションのバランス

  • メールのような即時通信手段は便利だが、深い思考や感情を伝えるには時として時間をかけるべきだ。

真の相談とは

  • 悩みを持つ人々は、実は「ただ聞いてほしい」と思っていることが多い。相談の際、相手が心の底から話すまで待つことが大切である。

真の輝きとは

  • 人生の成功や実績よりも、自分の成果を心から喜ぶ人がいることが、真の価値をもたらす。そういった人々の存在が、私たちの中の輝きを引き出すのだ。


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