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オルグ学入門/村田宏雄(2011/5/10)【読書ノート】

オルグとは、「組合や政党を組織したり、労働者・大衆に働きかけて組織の強化・拡大を図る活動を行ったりすること。また、その人。

明鏡国語辞典

個々の非力な存在が組織化によって強力なパワーを発揮するための鍵は、「オルグ活動」にある。この活動は、ひとがひとに働きかけ、その働きかけた相手を組織化するプロセスだ。しかし、単に勘や経験だけに頼るのではなく、社会心理学の知見を活用することが重要。これにより、オルグ活動を客観的に捉え、普遍妥当な学問としてのオルグ技術の開発が可能となる。
オルグ活動は、大衆が支配者に対抗するための必須学問だ。この実践的指導書では、組織化に必要な方法や技術を分かりやすく解説する。具体的には、以下のような内容が含まれる。

1. オルグ活動の基礎知識
オルグ活動の歴史や基本概念を紹介し、社会心理学の知見を踏まえた理論的背景を説明する。
2. 効果的なコミュニケーション技術
相手の心に響くメッセージの作り方や、説得力のある話し方、聴き方の技術を学ぶ。これには、信頼関係の構築や共感の引き出し方なども含まれる。
3. モチベーションの引き出し方
人々が行動を起こす動機を理解し、そのモチベーションを高める方法を探る。具体例を交えながら、実践的なアプローチを紹介する。
4. 組織運営のノウハウ
効率的な組織の構築と運営のための戦略を提供する。役割分担やリーダーシップの発揮方法、メンバー間のコミュニケーションの取り方などを詳述する。
5. 実践例とケーススタディ
成功したオルグ活動の実例を紹介し、その背後にある戦略や技術を解説する。また、失敗例から学ぶ教訓も取り上げ、実践的な知識を深める。

このような知識と技術を身につけることで、個々の非力な存在でも、組織化によって強力なパワーを発揮できるようになるのだ。オルグ活動は、大衆の力を結集し、社会を変革するための強力なツールとなる。

本書より一部抜粋

恐怖喚起アッピール:対象者に強烈な恐怖感・危機感を喚起させるような内容のコミュニケーションを行い、それから逃れる方法はただひとつ、大衆組織に一員として参加し、組織活動をすることだと主張する方法である。

スケープゴート法:これはいけにえをつくり、すべて悪の責任をそのひとひとりになすりつけ、そのひとを打倒するということで組織化をはかり、組織の団結を強化するというオルグである。

潜入オルグ:もっぱら敵組織・反対組織を壊滅、これを組織化するためのオルグ技術で、オルグであることを全く秘密にし、時に敵組織の活動家を装おい、大衆から好意化を獲得、敵中枢に地歩を占める。もちろんその問敵組織のウィーク・ポイントを調べ、敵組織の中枢部の弱点把握に努め、機会があれば、組織ごと組織化するというオルグのやり方である。

オルグの影響力を理解し、それに対する意識を高めることは、現代社会においてますます重要となっている。情報の洪水の中で、自らの意思を持ち続けるために、オルグの手法を見抜く目を養うことが必要だ。


本書は初版1982年(昭和57年)2011年に復刊された。
修辞学者:香西秀信氏評論家:呉智英氏によってネガティブなニュアンスで紹介されたことで一躍脚光を浴びた。さらに、2018年東海道新幹線車内殺傷事件の犯人が所持していたことでも注目された。
ネット上では「共産主義系勧誘・洗脳マニュアル」として紹介されることがあるが、著者である村田宏雄は、民社党系の人物である。
青木慧の著書『政労使秘団』(1983年)によると、村田宏雄は民社中央党学校で「オルグ学入門」という科目を講義し、また民社党誌『KAKUSHIN』で「仲間づくりの心理学」を連載していた。これらの活動からもわかるように、村田は労働運動や政治活動における組織化や人間関係の構築に関心を持っていたことがうかがえる。民社党という中道左派の政党での活動は、村田の思想や著作に大きな影響を与えていると考えられる。

質問攻撃

論争において、相手に質問を投げかけることは、実に戦略的な手段だ。
質問をする側に立つことで、攻撃的な立場を取ることができ、受動的に答えるよりも有利な立場に立つことができる
したがって、どちらの側も絶えず機会を狙い、攻撃に転じようとするわけだ。これが理論闘争の現実である。だからこそ、質問を受ける立場になった時の準備を怠ってはいけない。

論点操作

さらに、質問の意味を自分に都合の良いようにすり替える「争点操作」という技術もある。質問の意味を勝手に解釈し直し、回答しやすい内容に変えてしまうのだ。
例えば、「今の質問は、このような意味かと考える」と言って、自分に有利な方向に話を進める。相手が再度質問を促しても、同じような的外れな回答を続けることが重要だ。これにより、相手を疲労させ、再度質問する意欲を失わせることができる。

反論を引き伸ばす

そして、即座に反論が見つからない場合には、「反論を引き延ばす」ことが一つの戦術だ。意味を解明するためや、情報を提供するために、相手に質問を投げかける。その質問に対して、関連性が薄いことから答え始めることで時間を稼ぐ。そうしているうちに、適切な反論が思い浮かぶことがある。その時はすぐに反論に移るのがコツだ。

これらのテクニックは、理論闘争において重要な役割を果たす。オルグとしての準備や巧妙な話術は、相手を疲弊させ、議論を優位に進めるための鍵となる。

関連参考note

以下の節では、型式は藁人形攻撃に該当するが、それが果たして詭弁かどうかの判断がつきづらい議論をとりあげる。まずは、正真正銘の詭弁の例から引く。これは当人が、「崇高な」目的のためならどんな卑怯な手段も許されるとばかりに、確信犯的に詭弁を駆使している例
村田宏雄(むらたひろお)『オルグ学入門」第一〇章の「質疑防衛法その一」を、とりあえずは真っ当なことから書き始めている。

"理論闘争の場では、オルグが専ら一方的に相手に対して質問できるとばかり限らない。先制攻撃とか、先手必勝という言葉がある通り、理論闘争では、質問する側にまわって、この質問により相手を攻撃する側に立つ方が、質問に答える受身の側に立つより有利であり、やり易い。したがって、相手もまたチャンスをつかんで、質問する側にまわり、攻撃しようと絶えず狙うことになる。そのため、オルグとしては、質問を受ける立場に立った時のことも、充分心にとめ質問を受ける準備を常々しておかねばならぬ。"

"争点操作
この原型は、質問の意味を勝手にすりかえ、オルグにとって回答し易い質問に直し、それに長々と答え、それを聴く相手があきれると共に聴くことで疲労退屈し、再度の質問をする意欲を失わせるようにする方法。
「今の質問は、このような意味かと考える」などといって答えるような時、この争点操作を行っている場合が多い。この方法は相手がそれでは質問の回答にならぬと、再度回答を促してきた場合にも、相変わらず同じような的はずれの回答を続けるのが秘訣。"

ここで村田が、悪いことをしているという意識が皆無であることを見落とすまい。
正義はこちらにあり、オルグという崇高な任務を遂行しているのであるから、「悪」である相手をどのような手段で打ち破ってもそれは正しいのである。桃太郎が、いきなり鬼の目に砂をかけて目潰しをし、股間を蹴り上げて勝つようなものだ。相手は鬼なのだから、これは卑怯な手でも何でもない。
だが、論理学者の中には、この手のやり方を必ずしも虚偽とは見なさない者もいる。
革命前ロシアの論理学者セルゲイ・ボバルニンは、完全に問題をすりかえてしまうことは論外としても、即座には答えづらい質問に対し、あの手この手を使って回答を引き延ばすことは、「明白に許容される手法」であると断言している。それは「完全に許容され、そしてしばしば必要ですらある。」

”時に、論敵が持ち出してきた論拠に対して、われわれが即座に反論を見出せないことがある。それは、単に「頭に浮かんでこない」ただそれだけのこと。
そのような場合は、できるだけ相手に気づかれないように、「反論を引き延ばす」のだ。例えば、その論拠に関して、その意味を解明するためでも、あるいはもっと一般的に情報を提供するためでも、どんなことでもいいからたとえその必要がなくても何か問いを立てる。
そして、その問いに対し、何らかの関連がなくもないが直接には何の関係もないことを、迂遠なところから答え始めるといったように。そうしているうちに、頭が働き、望ましい反論が思い浮かぶということがよくある。その時は、すぐさま反論に移るのだ。”

ポバルニンが、一見詭弁的なこの手法を推奨するのは、人間の精神のメカニズムが「気まぐれ」だから。
議論の中で相手に何か言われて、とっさに言い返せないことがある。いったん言葉に詰まると気が動転して、ますます頭は働かない。だが、即座に反論できないことは、相手の言い分が正しいことを意味しない。
しばらく考えているうちに、その弱点に気づき、適切な反論を思いつくということもある。
その反論は、それが一秒後に思いつかれたものであろうと、一時間後に思いつかれたものであろうと、相手の議論を同一の観点から同一の方法で論破することにおいて全く同一の価値をもつ。
だとすれば、時間さえあれば簡単に論破できるような議論に、ただすぐには反論が思いつかなかったというだけで降参してしまう必要はない。
こちらがいい反論を思いつくまで「待って」もらえばいい。―こう考えると、のらりくら回答を引き延ばすことは必ずしも詭弁とは言えない。

論理病をなおす!: 処方箋としての詭弁/香西秀信

論点を変えるより引用


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