過去から来た男たち

路地裏ろじうら。
 
キュィーーーーン！
バリバリバリバリ！
 
突如とつじょ現れた、ト◯タ　スポーツ８００。
 
周囲を窺うかがいながら、
降車する二人の男性。
 
「無事か？」
「ああ…。
　そっちは？」
 
「……今のところ。
　体に異常は？」
「大丈夫だ…。
　しかし…なあ…
　ここは本当に未来なのか？
　見た感じ…あまり変化はないようだが」
 
「いや、間違いなく未来だ。
　ここは路地裏ろじうらだからだろう。
　もっと中心街に行けば、
　文明の進歩が分かるはずだ」
「そうか…そうだな。
　まずは周辺の現地調査だ。
　よし、行くか！」

「持ち物は？」
「大丈夫だ…カメラも持ったし…
　しまった！
　レコーダーを忘れてきた！」

「まあいい…カメラがあれば。
　気を付けろ…。
　恐らく、俺らの時代にはない、
　見慣みなれぬものばかりだろう。
　過剰かじょうに反応するなよ」
「わかった」
 
繁華街はんかがい。
 
キョロキョロしながら、
ぎこちない歩き方の二人。
 
「何か…妙だな」
「ああ……違和感ばかりだ」
 
「まず建物が、
　ほぼガラス張りだな」
「大きな一枚ガラスだ。
　あれは大丈夫なのか？
　割れたりしないのか？」
 
「さあな」
「しかし…街の中に文字が多くて、
　目がチカチカしてくるな」
 
「確かに…色も奇抜きばつだ…。
　おい、見てみろあの店。
　人が吸い込まれるように、
　入っていくぞ」
「近くで観察しよう……。
 
　とても繁盛はんじょうしてるじゃないか…。
　品揃しなぞろえがスゴい。
 
　日用雑貨もそうだが、
　雑誌に生鮮食料品。
 
　アイスにお菓子、
　軽食と飲み物も充実してる！
 
　タバコも売ってるぞ！
　しかも種類があんなに！」
 
「おいっ。
　あまり興奮こうふんするな。
　みんながこっちを見てる」
「あっ、すまない。
　つい…」
 
「一体何なんだ、この店は？
　見ろ！
　同じ店が何軒もあるぞ。
　ほら、すぐそこにも！
　あそこにも！」
「同じ店が何でこんなに？
　どうしてだ？
　未来の人間は足腰あしこしが弱いのか？」
 
「わからん。
　何か理由があるのだろう」
「おい！
　色が違うだけで、
　あれも同じじゃないか？！」
 
「全くもって意味がわからん」
「目の前に建てるなんてのは、
　ただごとじゃないぞ。
　企業間戦争じゃないか？」
 
「そうかもしれん。
　いくら人が多いにしても、
　なぜこんな近くに…。
　なんて無駄●●なことを…」
「何が起きたというんだ…この国で」
 
「おい、気付いてるか？」
「何が？」
 
「歩行者だ」
「歩行者がどうした？
　特に何も…」
 
「よく見てみろ。
　全員、何か…持ってる」
「ん？……あっ！
　あれは何だ？」
 
「わからん。
 
　みんなさっきから、
　ずっとあれを見てるんだ。
 
　なぜだ？
　彼らは何をしてる？
 
　何を一心不乱いっしんふらんに見てるんだ？」
「ずっと前も見ずにアレを見てるぞ！
　危なくないのか…ほら！
　いま肩がぶつかった」
 
「何なんだ、あれは？
　まるで人がアレに、
　取り憑つかれてるような…」
「あっ！危ない！
　あの男…
　わざとぶつかりに行ったぞ！」
 
「おかしい…何かがおかしい。
　どうしてしまったんだ…未来の人間は」
「おい、嘘うそだろ…そんな」
 
「どうした？」
「あれを見ろ」
 
「…ん？
　あ、あれは！
　何で…まさか！…
　たった５０年で…実現するなんて！」
「だから、みんな…
　奇妙きみょうな行動を！」
 
「断定はできんが…その可能性は高い。
　あの耳は…間違いなく…」
「耳を塞ふさぐ人間などいない！
　あれはアンドロイドだ！」
 
「恐るべき進歩だ！
　カメラ…カメラだ！
　証拠の写真を！」
「そ、そうだな」
 
「何してる！
　さっさと撮れ！」
「わ、わかった。
　すぐ撮るから！」
 
カシ…
 
「あれ？」
「どうした？」
 
「すまん。
　……フィルム忘れた」

「これじゃ、
　ただの日帰り観光じゃねえか！」

 このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。