今となれば…思い出
スマホの写真を眺めてる女性。
「あっ」
「どうしたの?」
「あのね。
いま写真整理してたら、
懐かしい写真見つけたの」
「見たい」
「これなんだけどね…」
「これって…合格発表?
ピースサインしてるけど…
この顔だと…
落ちた?」
「ううん。
合格した」
「なのに、この顔?」
「そうなの。
これには理由があるの」
「理由?」
「それはね……」
10年前。
合格発表当日。
(よし!
行くぞ~!
……
うわぁ~~
でも、緊張する~)
「ちょっと、リカ!
合格発表、ネットに出てんでしょ?
あなた番号、何番だっけ?」
「お母さん、やめて!
私、学校に見に行くんだから!」
「あなた高校まで行くの?
わざわざ?」
「私…
あの場所で見たいの…
どうしても」
「何で?」
「だってよくドラマや映画で、
よく流れてるでしょ?
こう…
たくさんの人混みの中…
張り出された番号を見上げ…
ず~と順に番号をなぞっていく…
もう少し…
あと少し…
あとふたつ…
あとひとつ…
あ……
あった!!
あれがやりたいの!!」
「わかったわかった。
熱量がスゴいわね、あんた。
そういうことなら、行っといで。
あなた平成生まれなのに、
そういうとこ昭和ね」
「別にいいでしょ!
こういうのは時代じゃなくて、
気持ちの問題!
じゃあ、行ってきます!」
「気をつけてね~。
とにかくわかったら、
すぐに連絡して」
「わかった~」
私は玄関横の自転車に乗り、
高校へと向かった。
(たぶん…
たぶん…
大丈夫だと思うんだよねぇ…。
でもなあ…
やっぱり結果見るまでは、
安心できないよねぇ。
なかったら…
やだなあ~。
そう言えば…
ミヨちゃん、どうしてるかな?
まだ連絡来てないし…
こういう時って難しいよねぇ…。
うちら同じ高校受けてるし…
片方だけとか…
私だけだったら、
手放しで喜べないよねぇ…。
一緒に合格して!
お願い!!
嗚呼~~!
急にスゴく緊張してきたぁ!!)
自転車の速度が上がる。
キキーーッ!!
「あれ?!
リカちゃん!?」
「あれ、ミヨちゃん!?
おはよう!」
「おはよう!
どうしたの?」
「ミヨちゃんこそ。
私…
いまから合格発表を見に行くとこ」
「ええ~!?
一緒~!!
私も今、見てきたとこ!!
リカちゃん受かってたよ!!
おめでとう!!
あとクラスの子は鈴木くん以外、
みんな受かった!!
私これから、
みんなに知らせに行くとこなの!!
じゃあ、またね!!」
「………
………
………」
キコキコキコキコ
パシャッ!
現在。
「…が、この写真」
「話聞いてからだと、
この絶妙な顔の意味が理解できる。
嬉しいけど笑えない感じが、
とてもよく出てるね」
「今となれば…
とても印象深い…
忘れられない…
いい思い出」