見出し画像

約束された国

夕方。
 
「よう、元気か?」
お前!
 無事だったんだな!

 
「当たり前さ」
「いや…
 だってみんな…
 そっちは危険だって…」
 
「まあ確かに…
 毎日、緊張感きんちょうかんはあるにはある…。
 でも、こっちでは…、
 文化的な生活が保障されてるんだ
「そうなのか?」
 
「そうさ。
 こっちは温かいし、
 食べ物だって豊富さ」
「本当に?」
 
「本当さ。
 オレ以前より…ちょっと太ったろ?」
「そういえば、
 ちょっと体つきが、ぽっちゃりしてる」
 
「だろ?
 いたるところに食べ物があって、
 不自由しない。
 まさに、あそこは天国さ。
 だからお前もこっちに来いって」
「でもボクは……」
 
「何を迷う必要があるんだ?
 そっちは寒暖かんだんの差がはげしいし、
 天候てんこうによっては大災害だろ?

「まあ…今年の夏は色々…
 ヤバかったかな…」
 
「知ってるよ。
 オレだってこっちに来てなかったら、
 どうなっていたかって思ったよ。
 お前…
 ちゃんとメシ食べてる?
「まあ…何とか…
 今日はまだ…何も食べてないけど…」
 
「ほら。
 そんなことだろうと思った。
 もうこっちに来いって。
 
 オレが色々と教えてやるから。
 オレと一緒なら心配いらないって。
 
 奴ら●●にさえ会わなければ、
 自由な生活が約束されてるんだ
「でも…
 そんな生活って可能なの?」
 
「大丈夫。
 オレを見ろ!
 お前と別れたあの日より、
 イキイキしてるだろ?」
「うん」
 
…行こうぜ、新天地へ!
 暗くなってきたから、
 誰にも見つからずに、
 忍び込むことができる

「…分かったよ!
 ボクも行く!」
 
「よし!
 じゃあ、オレの後に付いてきてくれ!
 特別な抜け道があるんだ!」
「ああ」
 
「あと国に入ったら、
 静かに行動してくれ。
 特に物音は立てるんじゃないぞ。
 命に関わるから…
「…ゴクッ……
 わ、わかったよ。
 静かに…静かにだね」
 
「そうだ。
 もうそろそろ出口だ。
 ここからは気を付けろ!
 オレの家までは、気を抜くな!
「お、OK!」
 
「シィーー…」
「………」
 
「………」
「………」
 
カサカサ… 

「パパ~~~!!!
 パパ~~~!!!」

ヤバい!!
 奴らに見つかった!!
 逃げろ!!

「どうして!?」
 
お前の足音だよ!!
 だからあれほど言ったのに!!

「あれもダメなの!?」
 
「ダメに決まってるだろ!!
 奴らは敏感びんかんなんだ!!
 
プシューーーーーーー!!
プシューーーーーーー!!
プシューーーーーーー!!

このけむりは何!?」 

それを吸っちゃダメだ!!
 毒ガスだ!!

「毒ガス!?」
 
「危険だ!!
 とにかく国の外へ!!
「分かった!!」
 
「ハアハアハア…
 何とか国外へ脱出できたか…。
 もう追ってこないだろ…

「ハアハアハア…
 さっきの毒ガスって…
 
「ああ。
 あれがうわさの…殺虫剤さ!
 
今夜は…野宿だな」

カサカサカサカサ…
カサカサカサカサ… 


このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。


この記事が参加している募集

眠れない夜に

一度は行きたいあの場所

お疲れ様でした。