シェア
酒器を傾けた指に震えが走る。汗ばんだ手を気取られる前に拭う。いっそ取り落としたら、設え…
綾下と行くといつも飯が美味くて、と斉藤は笑う。 いつも、美味い飯と美味い酒を用意して…
斉藤はアジフライが届くのを待っている。ジュワジュワと油の音の立つ調理場の方をちらりと見…
いつの間にやら刺身の盛り合わせは、きっちり一切れずつを残して斉藤の中へ消えている。自分…
いいかげん潮時だろう、と一度は思ったのだ。 職場での綾下はチームひとつ任せられる年齢…
そこへ注文の熱燗とモツ煮が届く。朗らかな店主の声にほっとしてから、綾下は自分が緊張と苛…
それ見ろ図星だ。溜め息を吐きたいのはこっちだ。綾下は苦々しい何かが出掛かった喉へ、ぐいとビールを流し込んで耐えた。傍らのメニュー表を取り上げて眺める間、斉藤はだって、とか、でも、とかぐずぐず言っている。綾下は座敷のふすまからひょいと顔を出し、熱燗を二合注文した。追加でモツ煮とだし巻き卵、刺身の盛り合わせ。「あとアジフライ」これは斉藤だ。 「や、別に勢いだったわけじゃないって。その日は普通に飲んで別れただけだし」 「昔なじみが何日目何回目のデートでホテルへ行ったかなんて赤裸々
また始まった。綾下は溜め息も吐きたくなった。呆れているふりをして、吐いた。実際呆れては…
得意先とのパイプ第一でその他の交友は三の次、普段は飯にも酒にも付き合わない昔なじみが即…
指定した店に着くと、ワイシャツの袖をたくし上げた男が座敷でジョッキを煽っている。綾下は…