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"未来の当たり前"を目指して 「仮想現実」で作る新しい航海のカタチ

海運業の担い手不足や離島航路の維持など海に関わる社会課題の解決策として期待が高まっている"自動運航船"。
オールジャパンで進んでいるこのプロジェクトを、長年航海計器で業界を支えてきたフルノの目線から紹介する「マガジン|自動運航船で世界をリードせよ!」
第四弾は"VRナビゲーションシステム"を紹介します。

今回お話を伺ったのは入社以来VRナビゲーションシステムの開発に尽力している金丸 直弘さん。

金丸 直弘さん
2020年に新卒でフルノへ入社。自律航行システム開発部に配属され、VRナビゲーションシステムを担当し、表示部開発のリーダーを務める。
趣味は釣り、料理、スキンダイビング、読書、ゲーム、筋トレ、バイク、動画編集・・・と多数。特に本にはお金を惜しまないとのこと。
座右の銘は"好きこそものの上手なれ"

仮想現実でより安全な航海をナビゲート、
フルノの強みと最新技術のコラボレーションで新しい価値を作る!

VRとは「Virtual Reality」の略で、「仮想現実」と訳されています。つまりVRナビゲーションシステムとは仮想現実の世界で船舶をナビゲーションするシステムのこと。画面例を見ても先進的な空気感を醸し出しています。

VRナビゲーションシステムの画面例

金丸さん「VRナビゲーションシステムは"自由自在に視点変更できる鳥瞰VR表示で自船周囲状況をより直感的に把握可能にする!"をコンセプトに開発を進めています。
衝突・座礁リスクを回避するために自船周囲状況を厳格に見張ることは航海士の基本業務のひとつですが、衝突・座礁の約7割が見逃しや誤解、過信などのヒューマンエラーに起因しているという課題があります。
また船員の人員不足に伴い、負担が増大しているとともに、スキル不足が深刻化しており、潜在的な事故リスクが高まっているとも言われています」

タンカーや客船などのいわゆる商船にはブリッジにECDIS(電子海図情報表示装置)や船舶用レーダー、AIS(船舶自動識別装置)が義務装備されています。それらの情報を統合し、ユーザーに分かりやすく自船の周囲状況を伝えるためのシステムがVRナビゲーションシステムです。

金丸さん「具体的にはVRナビゲーションシステムの画面上ではECDISから海岸線やブイなどの海図情報や自船の計画航路を得ており、レーダーやAISから周囲の船の位置や進路・速度などの情報を得ています。
それらを組み合わせることで自船の周囲状況だけでなく、他船との衝突リスクの表示なども行うことができます」

デスクの横に操作パネルを置いて動作を確認しながらプログラムを作っています

VRナビゲーションシステムの前にはAR(=拡張現実)の技術を活用して目視の見落としを防止し、気づきをサポートするARナビゲーションシステムが開発されていました。対してVRナビゲーションシステムでは周囲状況の把握時間を短縮し、危険を察知、操船判断をする時間を増やすことで航海の安全に寄与したいとする製品なのだそう。
”フルノのもつセンサー技術と最新技術を組み合わせ、より安心・安全な航海を実現させたい”、そんな想いを持って開発が進められています。

未経験からの挑戦!
人に新しい価値を与える仕事の魅力とは?

足がけ5年、VRナビゲーションシステムの開発に携わっている金丸さんですが、どこに面白みを感じているのでしょうか。

金丸さん「私自身、入社のときから"人に新しい価値を与える仕事"をやりたいと考えていました。その点ではVRナビゲーションシステムのような前例がない製品の開発というだけで苦労よりも楽しいが優っていたように思います」

しかし、話を聞くと金丸さんの学生時代の専攻は電気電子工学で、入社時はソフトウェアの経験はほとんどなかったことに驚きました。また舶用機器の知識も乏しい中で一からVRナビゲーションシステムを作り上げるには課題も多かったのではないかと推測できます。

金丸さん「最初はコードってなんですか?のレベルから始めましたね。配属最初の長期休暇などはずっと参考書を読み耽ってプログラムの勉強をしていました。
VRナビゲーションシステムはベースプログラムとしてARナビゲーションシステムがあり、先輩方にサポートいただけたおかげでここまで進めることができたと思います。またブラッシュアップのためにご意見をくださった船員の皆様にとても感謝しています」

そうして進められたVRナビゲーションシステムの開発は2022年にひとつの成果を見ることとなります。それは公益財団法人日本財団が推進する無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」における無人運航船の実証実験。
2022年2月26日から3月1日にかけて、東京港と津松阪港間約790kmで無人運航船の実運用を模擬した実証実験が実施されました。

その際、フルノでは陸上からも船舶を監視し、船上の自動航行システムが陸上の支援を必要と判断した場合に、陸上から本船を遠隔操船するなど、速やかに本船の安全確保ができる非常対応システムを開発しています。その中でVRナビゲーションシステムは陸上船長の周囲状況把握に大きく貢献していました。

遠隔操船用コンソール、近未来的なデザインとなりました
コンソールの中心部にVRナビゲーションの操作パネルが配置されました

金丸さん「無事納期通りにソフトウェアを完成させて実証実験ができたことはとても嬉しかったですね。要件定義、実装、レビューを何度も繰り返して機能改善を進め、実証実験では製品化に向けた課題の洗い出しができました。そこからさらにDFFASでの縁もあってお客様の船でトライアルを行う段階へ進むことが出来ました」

DFFAS(Designing the Future of Full Autonomous Ship)プロジェクト
DFFASプロジェクトは日本財団MEGURI2040無人運航船プロジェクトにおける一つのコンソーシアムであり、日本郵船グループが主導する「無人運航船の未来創造 ~多様な専門家で描くグランドデザイン~」において、国内30社で構成されるプロジェクトです。"無人運航船が支える内航海運事業の実現"を目指し、内航船の人手不足という社会的課題の解消に貢献します。

追求したのは使いやすさ、
頼ってもらえるシステムにするために重ねた工夫

現在金丸さんはVRナビゲーションシステムの製品化に向けて、様々な船でトライアルを進めています。トライアルを通してより明確に課題が見えてきたと言います。

それは現状、世界中で沢山の船舶が運航されている中、義務装備品のECDISやレーダー、AIS、そして見張りや航海計画を管理する船員の方々がいれば"基本的には船は航行可能"という事実。
その状況下で、新しいシステムを追加でご購入いただくことはとても難しいことだと金丸さんは考えています。

金丸さん「この課題感を周囲に話すときもよく大工さんにトンカチを売る話をするのですが、すでにトンカチを持っている大工さんに同じことができる新品を持っていっても滅多に買ってはくれません。たとえば『同時に3本の釘が打てますよ』とか『釘が曲がらないようなサポートが付いてますよ』といったお客さんに分かりやすいメリットを伝えると買ってもらえるかもしれません。

船員の方々も少ない人数で船を動かしている中で、どれだけ既存のやり方ではなく、新しいシステムに頼ってもらえるか、必要と思ってもらえるかが今目の前にある課題だと考えています」

そこでトライアルを通してVRナビゲーションシステムの使いやすさ・見やすさの向上に注力したのだそう。
特にこだわったのが自由自在な鳥瞰視点だからこそ、どのように表現すれば周囲状況をユーザーに誤解なく伝えられるかということ。トライアルのお客様のレビューを繰り返し、作り上げたと言います。

金丸さん「基本的には3D表示なので現実と同様リアルな大きさで船を表示します。しかし遠くの船などは米粒のように小さくなってしまうので、ある程度の俯瞰的な視点のときは敢えて表示を2Dにして船の位置関係のみを把握できるようにしています。
また全ての航海情報を1画面に落とし込むと見づらくなってしまいますのでECDISやレーダーから得た情報の中で安全航行のために必要な情報に絞って表示するというような工夫を重ねました」

3Dのターゲットと2Dのターゲットを上手く配置することで見やすい画面を作っているとのこと

他にもタッチパネルモニターの利点を活かして、スマホの地図アプリのようにピンチイン/ピンチアウトで縮小拡大が出来たり、タップで他船の情報を知ることが出来るなど、直感的に操作することができるようユーザーインターフェースにはこだわったと言います。

展示会では実際に多くの方々に触っていただきました

そうして作り上げたVRナビゲーションシステムは展示会などにも出展され来場者から好評を得たそう。このシステムが普及すれば安全航行に寄与するだけでなく、"見張りの標準化"が出来ると金丸さんは期待しています。

金丸さん「ベテランの船員さんはレーダー、ECDIS、そして目視で得た情報を頭の中で組み合わせて周囲状況をイメージされていると思います。しかしその背景には多くの知識と経験が必要で、習得には時間がかかります。
VRナビゲーションシステムはまさにそのベテラン航海士の頭の中のイメージを具現化したもの。ベテラン航海士の"視点"を提供することでOJT中の若手海技士の不安をや負担を軽減し、船全体の見張りの品質を高めることができると思います」

製品化の先に見据える"未来の当たり前を作る仕事"

子供の頃から新しいことに挑戦することが好きで、さらに周囲の人に新しい気づきを届けるのが好きだったという金丸さん。
そんな彼を突き動かすのは「未来の当たり前を作る仕事がしたい」という想いです。これからの展望を伺いました。

金丸さん「VRナビゲーションシステムがある程度形になってからは"顧客価値の創造"とずっと向き合ってきたと思いますし、これからもずっと戦い続けるところかなと思います。トライアルや展示会でも好評で『これがあると便利』ということは理解いただいている段階まではきましたが、最終的には売れるものを作らないと意味がないと考えています。

お客様が求めている以上のものを作り上げ、『便利』から『これがないとやりにくい・困る』というレベルまで引き上げたいと思います」

新しいシステムということで注目も多く集めたVRナビゲーションシステム
今後の製品化への期待の声をいただきました

今はトライアルとして世の中に出して反応を見る段階、さらなる顧客価値を知るためにお客様のところに赴き、売れ行きに影響する機能を見定め、機能追加をしていきたいと金丸さんは意気込みます。
さらにVRナビゲーションシステムの製品化の先に見据えていることがあるのだそう。

金丸さん「VRナビゲーションシステムはベースにARナビゲーションの技術があるので0から1の開発というよりは1から10の開発だと認識しています。次は0から1の開発に挑戦したいというのが自身の将来的な目標です。
そのためVRナビゲーションシステムのプロジェクトを通して0から1につながるような技術の種を見つけたいですね。そしてフルノの自律航行のシェア拡大に貢献していきたいと思います」

自律航行への期待で盛り上がる海運市場、競合他社なども増えてくる中で、どうしたら選ばれるメーカーになるのか。今後ますます重要視される要素が"顧客価値"です。
デジタル化が進む中においてもフルノが大切にしてきた"現場種技"の考え方を忘れず、顧客価値ベースで自律航行システムは進化を続けています。



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