図書館司書の失敗談③「図書館への寄贈に文学全集は……!」
こんばんは、古河なつみです。
今回は司書時代に経験した図書館の寄贈で大ドジをしてしまった時のお話を紹介します。
「そちらの図書館では寄贈って受け付けてるのかしら?」
市内にお住いのおばあさんからの電話に私は対応しました。
「ええ、受け入れておりますが……(詳しい説明をしようとする)」
「ありがとう!今から持って行くわね!」
すぐに電話は切れてしまいました。
どうしてだろう……すごく……いやな予感がします……
一時間後におばあさんが来館される
「こんにちは。さっきお電話をしたんだけれど、持ってきた寄贈の本を運ぶの、手伝ってくださるかしら?」
「ええ、どのくらいの量になりますか?」
「7箱あるの」
「……な、7箱、ですか」
高まっていくいやな予感……
この年代の方が持ち込む大量の本……
それは……!!!!!
「どんな本を持ってきてくださったかお伺いしてもいいですか?」
「ええ、全部文学全集なの。ブックオフへ持って行ったら買取できませんって言われちゃって」
やっぱりーーーー!!!
それは図書館でもほとんどの場合所蔵できません!!
昭和の文学全集の寄贈は……
実は昭和時代に「文学全集ブーム」というのがあり、大変多くの部数が刷られたために今になって不要になった文学全集をご高齢の市民の方から寄贈されるケースが後を絶ちません。しかし、その多くは「既に図書館が所蔵しており、特に買い替える必要もない」場合が多いため、良くて「リサイクルブックとして活用」、最悪「廃棄」になります。
いわゆる飽和してしまっている資料なので、昭和時代の文学全集はブックオフのような大手古本屋さんや図書館では「お断り」する場所が多くなってきています。
しかし、よかれと思ってたくさんの本を持ち込んでいただいたのを「ウチもブックオフと同じで受け取れないんです」と返すなんて……説明を聞いてくれなかったおばあさんもおばあさんではあるけど……
さらに悲しい事に、持ち込まれた文集はシミだらけで既に虫が這ってしまっているページもあり、とどめに持ち主の方のお名前がしっかり書きこまれていました(衛生面と個人情報保護の都合でこの時の自治体ではNG)。
全て廃棄に回すしかない……この量を……
私は上司へ相談しに行きました。
「すみません……私のご案内不足で利用者の方が廃棄するしかない文学全集を7箱持ち込んできてしまいました……」
「えっ、廃棄するしかないの? せめてリサイクル本にしてあげるのは……」
「埃まみれで虫もいたので衛生的に無理そうで……記名もあって……」
重い沈黙が流れました。
これには大きな理由があります。
図書館がゴミを出す時にはお金がかかる!?
公共図書館で「廃棄」するということはもちろん「ゴミに出す」ということなのですが、公共図書館から発生するゴミは「事業系ごみ」に該当してしまうため基本的に「有料」でしか引き取ってもらえません。
個人の方が古紙回収などのタイミングで不要な本を捨てる場合には、もちろんお金はかからないのですが……図書館で預かってしまった「廃棄本」を処分する場合にはその自治体の市民の皆様からお預かりした大事な「税金の一部」が使われてしまいます。
基本的にブックオフと公共図書館の判断基準はほぼ同じになってきているの
で、ブックオフで断られた本を図書館へ持ち込むことはオススメしません(例外も存在します/特に地域資料・参考資料は古くても受け入れる例があります)。
この時はひたすらお詫びをして事情を説明した上で、おばあさんが持ち帰ると言っても、引き取ってほしいと言われてもそれに従おう、という結論になり、お話をしました。
おばあさんは「まぁ、そんな仕組みだったのね!」とあっけらかんとした様子で頷いてくださって、それらの文学全集をお家に持って帰ってくださいました。
いくら車でお越しとはいえ、あんな華奢なおばあさんに重労働させてしまった……と、当時はかなり凹みました。
寄贈をしてくださる方は良かれと思って図書館に本を持ち込んでくださるので、司書はできるだけ受け取りたいと思っているのですが……「シミや汚れのある本」「黄ばみのひどい本」「虫食いが発生している本」「持ち主の方のお名前や蔵書印のある本」は廃棄になる事が多く、図書館では大きな負担となっています。
あまりにも廃棄の金額の負担が増えすぎて、寄贈をほぼ全て断る公共図書館も出てきているようなので、ご実家の整理や、断捨離、終活などで図書館への寄贈の持ち込みを考えた時は、持ち込もうとしている図書館に電話をして、どんな資料なら受け入れられるのか、お問い合わせをするのが一番いいと思います。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
それでは、またの夜に。
古河なつみ
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