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母の日を迎え

 両親と同居している僕の家族は〝母の日〟を迎え、毎年恒例となっている事がある。そのひとつが、僕の母親に渡している“お気持ち”と言う名のこころばかりの感謝のお札である。

 このご時世、ものは十分満たされており、使い勝手の一番良いものと言えばアレだ。そうゲンキンなもので、プレゼントとしては一番無難であり、野暮な選択なのかも知れない。母親がそのお金をどう使おうと僕に責任がある訳ではないし、スマートで尚且つ現実的な選択なのであろう。

 一方、子供から嫁への〝母の日〟のプレゼントには〝愛〟が感じられる。子供たちが中心となって、〝母の日〟の晩ご飯を作るのだから・・・。

 しかも“愛”と言う名のスパイスの効いたカレーライスだ。下手に手の込んだ料理より、失敗する可能性の極めて低い選択肢だからである。それでいて、子供から大人まで皆んなが喜ぶ計算尽くされた魔法のスパイスでもあるのだ。

 僕は子供たちの指示に従い助手に回る。チーフコックは娘、サブチーフは息子と言った所だろう。〝母の日〟の大切なお客様は〝ママ〟だ。そして僕の両親も招待されている。僕は助手なのでコックの指示に従い、ジャガイモ、ニンジン、タマネギの皮むき担当だ。鍋に火が入り、お肉や野菜を炒めて煮込めば・・・。

 あら不思議、魔法のスパイス入れて弱火でコトコトと〝愛〟を温める。パンチの効いたスパイスの香りが漂う。もう香りだけで、こころ満たされた感覚だ。

 ご飯にカレーをかけテーブルの上に乗せると、黄色いルーから食欲をそそる匂いが漂う。嫁の嬉しそうな表情を僕は観る事が出来た。子供たちも大満足・・・。

 僕はカレーを皆んなで食べる時、慌てて母親に〝お気持ち〟と言う名のお札を〝ポチ袋〟に入れ渡したのだった。

「健康で長生きしてくれよ!」

 言葉には出さなかったが、こころの中で呟いた。

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