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ひとつ上の兄貴

 我が家は年に一度、正月に両親と三人兄弟の家族一家で集まる。ちょうど正月を前にして、ひとつ上の兄貴から僕のスマホに着信が届いた。僕はてっきり、「来年の新年会の打ち合わせの連絡だろう・・・」。そう思ってスマホを確認した。

 すると見事に予想は外れてしまった。兄貴からの連絡をよく観ると、「明日から札幌に出張する。小学生時代の集合写真を送ってくれ!」と、一方的な内容が書かれてあった。

 幼い頃、我が家は転勤族で、小学生時代に引越しを二回している。つまり、僕とひとつ上の兄貴は小学生時代に、札幌・名古屋・東京と転校を繰り返し、小学生時代の母校が三校ある。そして今回、両親と同居している僕の家に、兄貴の幼い頃の〝青春と想い出〟の詰まった写真があるらしいのだ。

 兄貴は明日から札幌に出張で、小学生時代の友人と会う約束でもしているのだろうか。そんな事を考えながら、兄貴からの至上命令には逆らえない自分がいる。押し入れを散々探し、やっと見つかった写真やアルバムを開く。

 自分と弟の物しか見当たらない。兄貴の写真とアルバムは音沙汰なし。きっとだいぶ前に、兄貴は自分で持って行ったのであろう。取り越し苦労で、兄貴には僅かに見つかった写真を数枚、スマホに収め送信し僕なりの〝努力と誠意〟を示したのだ。

 ひとつ上の兄貴からの任務完了。解放された僕は、自分の小学生時代の卒業アルバムを開き、写真と共にそこに書かれてあった〝卒業文集〟を眺める。

 しばしにやけた自分がいた。

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