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『星野源×あちこちオードリーに感動すら覚えた』 テレビかじりつきVol.12

星野源が語っていたことは、信頼と共感に満ちた美しい言語化能力の証明だった。

先日の『あちこちオードリー』ゲストは星野源。

星野源について

かつて妻夫木聡×安藤政信が共演した『69』という映画があった。60年代の学生運動をテーマに、無軌道な若者たちを描いた痛快なバカ映画である。僕は村上龍の原作含めてこの作品が好きだった。星野源との最初の出会いはこれだった。

妻夫木率いるバリケード封鎖なんかをやる学生チームの一員に星野源はいた。坊主頭でメガネで、まるで水木しげる作品のモブキャラみたいな地味な見た目。それでも妙に印象に残っているのは、劇中で深夜の学校に忍び込んだ際、星野源演じる男が校長室の机の上であぶら汗を流して絶叫しながら脱糞する場面がめちゃくちゃ強烈で面白かったからである。

サブカルにとどまらない存在へ

せいぜいサブカル人気で留まるのかと思いきや、気付けばあっという間に紅白常連。メジャーでポップな存在としても認知されていった。
役者としてもいつの間にかガッキーと主演を張るような存在となり、ついにはガッキーと結婚にまで至った。

いつの間に、あっという間になんて言葉で片付けられたら、本人はたまったもんじゃないだろう。ただ実際、逃げ恥の前後で知った人たちからすれば、SAKEROCKはもちろん、音楽や演劇、文筆業やラジオなど、多才な活動で地道にコアなファンを獲得し続けた過程なんて大して知らないのた。

チャレンジから定着へ

番組ではマルチな活躍に至るまでの暗黒時代だった20代についても言及した。阿佐ヶ谷の風呂無しアパートで暮らし、中野のバイト先まで自転車で通っていたらしい。鬱屈とした日々を送りながら「絶対売れてやる」と強い野心を持って、とにかく簡単に諦めることをしなかった。

そもそも音楽と芝居が融合したコントのように、ボーダレスな活動を志していたという星野源。「風通しをよくしておこう」と意図的に色々やっていたようだ。若林ともお笑い芸人だらけの大喜利ライブで当時共演を果たしていた。

彼がすごいのはその大喜利ライブで優勝してしまうところ。そもそもマルチに色々やろうといったって、才能や結果を見せつけられなければ次はない。文筆業にせよラジオにせよ、彼はチャレンジするだけでなく、着実に結果や存在感を出して自分の地場を固めていったのだ。

これも「多才」の一言で片付けてしまうのは簡単だ。言葉を替えるなら、おそらくこのひとはバランス感覚がズバ抜けている。

バランス感覚と言語化能力

バラエティ番組での立ち振る舞いやサービス精神など絶妙だ。スタッフやファンの期待に応えながらも、やり過ぎることはせず敵も作らず、かといって守りすぎて無難に流すようなこともしない。めちゃくちゃ周りのことも自分のこともよく見えている。

この放送内ではオードリー若林とのエピソードも披露されていた。「きっと誰もわからない。見てくれていないだろう」といった若林の細やかな配慮や葛藤を、星野源だけは気付いてくれて、ポジティブな感想をメールで送ってくれるそうだ。まあ驚くほど人のことをよく見ている。若林はいたく感動していた。

おそらくずっと自分で自分の才能を信じながらも日の目を見ないもどかしい日々を過ごし、誰かに早く認められたいと強く願った時間が長かったからこそ、同じような境地にいる人のことをシンクロするかのように気付けるのだろう。

ハッとするような着眼点や観察眼、何よりそれを完璧な言葉選びで伝える言語化能力。すぐに自分の役割や人が求めていることに気付けるセンス。圧倒的にバランス感覚に長けている。

他の人は気付かない。気付いたとしても言ってこない。あるいは言ってきたとしても魅力的な伝え方をしてこない。そんなハードルを軽やかに越えてきたのが星野源だとすれば、ガッキーが惚れたのも分かる気はする。ドラマ撮影中も自然に声をかけ、よく褒めていたそうだから。

そんな伴侶との生活を訊かれてもサラッと「結衣ちゃん」と言葉にし、豊かな時間を作れていることを語った。

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「一生一緒にいると決めた相手だからこそ何でも話せる。一緒にごはんを食べる人が毎日いて、何気ないことを話せる。そんな時間があることに感動する」

そんなふうに語り、若林も同意していた。個人的にもとっても共感した。

信頼と共感だらけの話術

プロになれると思った瞬間について語ったエピソードも良かった。

ソロでの音楽活動を本格化させ、ライブで『ばらばら』という曲を弾き語りした際、前列にいたお客さんがみんな涙を流した。それを見て手応えを掴み「労力のわりにリターンの多い仕事は自分に向いてる」と確信を強めたという。

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まさに「勝ち易きに勝つ」の典型。努力を努力だと思わず勝てる場所で戦うのが一番なのだ。見た目はソフトな印象ながら、人並み以上の野心や戦略をちゃんと持っている。だから成功する。

多忙を極めた際も「1行でもセリフが欲しいと思っていた時期がある」し、「ずっとこうなりたいと思っていた」からこそ乗り越えられたとのこと。

次から次へと腑に落ちることばかりを明朗に語る男…これが星野源!恐るべし。

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「当時の思い出や心情は、当時を過ごした道やファミレスに焼きついている」

このトークにも痺れた。ほんとうにその通りだと思うから。

今でもそこを通るだけで鮮やかに色味を帯びながら当時の記憶がフラッシュバックする道がある。訪れるだけでいつかの光景が輪郭を持って立ち上がり、誰かの優しい声とともに蘇る街がある。
そんな場所が、いくつもある。

それを「焼き付いている」と表現できる2人に惚れ惚れする。

こんなにも信頼と共感に満ちたトークを延々と繰り広げられる星野源には恐れ入った。ずっとラジオ聴いてくればよかったと思うほどに。

毎週見てるけれど、改めて見応えのある素晴らしいテレビ番組だ。

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います