木村花さん誹謗中傷&ヤラセ問題の根本にある「人心売買社会」の仕組み
木村花さんの急逝は、日本中に衝撃を与えた。その原因とされているSNSでの誹謗中傷や、リアリティ番組の演出の責任を問う声も大きい。
もちろんこの問題の究明は大切である。しかし、この目に見える2つの問題に対処すればすべてが解決するわけではない。根本の課題を解決しなければ、形を変えた同様の事件が発生してしまうだろう。
この記事では、誹謗中傷や過剰演出を生み出す構造を解いたうえで、その根本からの解決策を提示していきたい。
0.サマリ
①木村花さんの事件をきっかけに、SNSでの誹謗中傷や、リアリティ番組の過剰演出に対する批判が噴出している
②誹謗中傷や過剰演出が生まれる背景には、「他人の人格を消費したい」という人間の欲望と、その欲望をビジネスとして循環させる「人心売買」とも言える社会構造がある
③この課題の解決には、目に見えている個々の問題に手を打つだけでなく、「人心売買の循環そのもの」を止めなければならない
④解決策の一つとなるのが、人の心の取引からスキルや知識の取引へ移行することである。これは社会的な利益だけでなく、実は個々のビジネスとしても有益である。
1.誹謗中傷と演出(やらせ)に対する批判
5/23、リアリティ番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが命を絶った。SNSでの誹謗中傷がその原因とされている。
その報を受け、まず世間の目が集まったのは、直接的なきっかけとなったSNSでの誹謗中傷問題だった。この問題は国会でも取り上げられている。
次に少し時間を置いて、番組制作側の責任を問う声が大きくなっていった。この問題はネットメディアや週刊誌(特に週刊文春)が大きく取り上げている。
しかし、この目に見える2つの問題に対処すればすべてが解決するわけではない。根本の課題を解決しなければ、また形を変えた同じような事件が起きてしまうだろう。
ではそもそも、このような現象は、何を背景に生まれているのか。
2.問題の根本にある「人心売買社会」という背景
誹謗中傷や過剰演出の問題は、決して独立して発生しているわけではない。それらが生まれてしまう、共通した背景がある。
その起点となっているのは、人間が持つ「他人の人格を消費したい」という欲望。これが「SNS」や「メディア」という商業装置を経由して「演者」に届く。
この他人の心を消費する一連の構造、いわば「人心売買」のような循環が、大衆をSNSでの誹謗中傷に向かわせ、メディアを過剰演出に向かわせてしまっている。
この循環を図解するとこのようになる。
大衆とメディア間の取引
①大衆はメディアの制作した番組を視聴する(金が流れる)
②メディアは大衆が視聴したくなるコンテンツを届ける
メディアと演者間の取引
③メディアは演者に対し、番組出演による露出のメリットを与える
④演者はメディアに対し、演出された人格を差し出す
大衆とSNS間の取引
⑤SNSは大衆に対し、自由に感情を発露する場を与える
⑥大衆はSNSに、個々の思いを発する(共感も誹謗中傷もある)
SNSと演者間の取引
⑦SNSは演者に対し、発信力を与える(フォロワー数という仕組み)
⑧演者はSNSに、演出されていない人格を直接発信することができる
※再掲
3.個々の対応策の限界
現時点で問題視されている「SNSでの誹謗中傷」や「過剰な演出」は、この循環を構成する一要素でしかない。
前項の通り、この循環は多くの取引で成立している。この循環の一部分だけを抑制するとどうなるか。循環自体が止まらない以上、別の手段が開通され、形を変えた同様の事件が発生してしまうだろう。(液体の循環と同じように)
この循環そのものを止めるためには、個々の取引だけでなく、心臓部を止める必要がある。
4.人の心の売買から、スキルや知識の売買へ
人心売買循環の心臓部は何か。それは「他人の人格を消費したい」という欲望である。では、それをどう変えていけばよいか。
解決策のひとつとなるのが、「人の心の取引から、スキルや知識の取引への移行」である。
これまで、「人間を動かすのは、スキルや知識ではなく心」と言われていた。この説に基づいて作り上げられたのがリアリティ番組であり、誤解を恐れずに言えばメディア戦略で作り上げられた従来型のインフルエンサービジネス(演者のアサイン)である。
この説自体は否定するものではない。しかし、一過性の行動ではなく購買行動を対象とした場合、話が変わってくる。
以下のデータは、インフルエンサーが持つ影響力を調査したものである。
※出典:売りにつながる”ソーシャルメディアとインフルエンサーの実態調査(株式会社トライバルメディアハウス)
これを見てわかる通り、従来型のインフルエンサーが持つ影響力は、実は強くない。従来型のインフルエンサーよりも、「特定のカテゴリーや領域に詳しい投稿者」「ライフスタイルや趣味などが自分と似ている投稿者」など、何かしらのスキルや知識を持った個人の方が強い影響力を持っていることがわかる。
人の心の取引からスキルや知識の取引への移行すること。それは、誹謗中傷被害などを無くすための社会的なメリットはもちろん、個々のビジネスにおいても有益なターニングポイントとなるはずである。
※この件のより詳しい話は、トライバルメディアハウスの池田代表の記事で説明されています
5.最後に~なぜこの話を「今」するのか~
ここまで書いてきたが、おそらくこの記事をシェアして頂ける人は限られてくるだろう。なぜならこの記事が「SNSユーザーが求める答え」に合っていないからである。
この件に関するSNSユーザーの「答え」とは、「誹謗中傷とテラスハウスは悪者」という主張を、「みんなが盛り上がっているタイミング」で発することである。
この記事は一般的なSNSユーザーからしたら、「空気が読めていない」記事なのだと思う。
だからこそ、このタイミングだからこそ読んでくれるような人に届いて欲しいという思いで、今この記事を書いている。
マーケターをはじめ、メディアやインフルエンサービジネスの関係者様など、多くの立場の方からご意見を頂ければ幸いです。
以上。
※記事の主は基本的にTwitterでいつもこんなことを呟いています。まだアカウント開設したてでフォロワーも少ないですが、面白いなと思ったらぜひTwitterもフォローして絡んで頂けると嬉しいです。(TikTokから来てくれた熱心な中高生のフォロワーも多いため、リプ欄での発見も多いと思います)
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