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試練

そうか、そう言えばオレ
この仕事やりたいわけじゃ
なかったわ。

福祉の仕事を8年続けて
いまさら思う。

だからこの程度のことも
乗り越えれない。

他機関との
方針の食い違いで
支援が行き詰っている。

本来、こんなことはよくあるもの。

さすがに8年もやってりゃ
何度か乗り越えた。

結局、根気強い対話でしか
すり合わせることはできない。
それはわかっている。

でも今回はもうダメだ。

ある相談者をつなぐために
他支援機関へ打診して
威圧を込めた返答をされた。

強烈な拒絶だった。

胃を握りつぶされるような痛みと
急速におれの心を埋める険悪感。

どうしてわかってくれないんだという怒り。

今すぐこの場から立ち去って
二度と戻らずに
辞めてしまいたい衝動に駆られた。

その衝動を抑えるのに
30分程度、
その場にうずくまって
動けずにいた。

やっとの思いで
仮病をつかい早退する。

おれは思う。

おれにはこの試練を乗り越える気がない。

気づいてしまったからだ。

もともと、この仕事
やりたくてやったわけじゃなかった。

福祉を学んだこともなく
望んで応募した仕事でもない。

ただ先輩に誘われて
やってみたら
おもしろかった。

気がついたら8年続いただけだ。

これを乗り越えるためには
〝やりたくて自ら選択した仕事〟という
誇りがなくてはだめだ。

他にもいろいろ選択肢はあるはずだが、
おれはそう結論づけた。

入職当時、
これまで福祉とは無縁なおれは、
そのことが逆に
みんなから重宝がられた。

福祉にはない発想だと。

もともと
社会性のある性格じゃないことも
相談者に近い目線として
支援の役に立った。

福祉の、そんな懐の深さが好きだった。

そう言えば昔は
あまりの社会性のなさから
「人間じゃないみたい」と
よくからかわれたものだ。

久しくそう言われていないな。

やりたい仕事じゃないと気づいてからは
もう続けるモチベーションが保てなかった。

上司へ一年後に辞めると伝えた。

もともとおれの支援の良さは
福祉っぽくないところ。
社会人っぽくないところ。
人間っぽくないところ。

最後の一年はおれらしく支援する。

そして、その良さを
もっと生かそうと考えたら、
支援機関に所属せず
普通に社会の一員として
人々と助け合いながら過ごす。

その、ただ助け合う
普通のことが
多分おれの理想的な支援。

そう考えていた。

今、退職して一年を過ぎて
福祉の先輩たちから
ちょこちょこ
声をかけていただいている。

一緒におもしろいことやろうと
言ってもらえてる。

ありがたいことに、
考えていたかたちができつつある。

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