ミトコンドリアに関する幾つかの雑記(上)
①変則的な遺伝暗号に関して
https://ameblo.jp/mitakushigeki49/entry-12676434016.html
上記の敬愛するブログを読んだ。コドン表には生物を構成するアミノ酸に対応する遺伝暗号とアミノ酸の物性という物理的な情報の二つがあるのだ、と私なりに理解した。コドン表といえば、私の卒業研究とも僅かに重なるかもしれないが、細胞内の微小器官には、核でもないのに独自の遺伝情報・遺伝暗号をもつものがいて、核とはその遺伝暗号の規則が若干異なるようだ。私の知るサイトを幾つか以下に紹介する。ただし、そのわずかな遺伝暗号の違いにより、その生物種が個性を放つといったことがあるのだろうか、とは、考えてみたことがあった。要するに、遺伝暗号の規則を遺伝子操作で仮に変えられるなら、その生物種の発生過程や行動パターンなどが変容するのか?ということだ。今回の敬愛するブログ記事に基づいて考えれば、アミノ酸の物性として疎水性・親水性といった重要な点が変わらなければ、おそらく何も変わらないのだろうと思う。逆にそこが変わるようであれば、その生物種は孵化・生誕するところまで発生しえないのではないか、と個人的に思った。
藻類における変則な遺伝暗号
http://sourui.org/publications/phycology21/materials/file_list_21_pdf/15CodonUsage.pdf
普遍遺伝暗号表に従わない tRNA
http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2015/03/86-04-10.pdf
ミトコンドリアの遺伝暗号が多細胞動物で変則的なものが多いのはなぜか?という問いに関しては、ゲノムサイズや塩基の種類の偏りなどが考えられるようだが、関連の記録をいくつか巡っても、生物種としての個性的な振る舞いには繋がる要素を、見出すことは、私にはできなかった。基本的なコドンの成立過程については、幾つかの仮説が前世紀に立てられ、生命の起源の研究に繋がるのだろうが、コドン表に関しては、個々の生物種の個性に意味するところは、限りなくゼロに近いように感じる。それよりは、生命の維持に必要な物理的な許容とその拘束にあるのではないかと感じる。
tRNAの改変により、遺伝暗号の改変は技術的に出来る模様。既に2012年に東京工業大学のチームが発表していた。ここでは大腸菌を使用。ただし、遺伝暗号の変則の起源というよりは、医薬品開発を視野にいれているようだ。
と、いろいろ書き足してみたが、コドンの成立とその変則については、正直、第一人者の書籍を読んでも、理解することが出来ない。法則や規則なるものが、そもそもあるのかも、理解できないでいる。
②細胞内小器官の転移RNAの機能・構造・多様性に関する報告を流し見て
次世代シーケンサーや塩基配列の解析ソフトなど諸分野との融合で生命科学を支援する装置が進歩すると、新規の塩基配列や構造を発見するという馬力ありきの作業も、儚く思えてくる。玄人である科学研究者にとっては不可避の行程であるが、無知無能な実験者にとっては、徒労以外の何者でも無い。そういった人種は、完全にプロトコールが決まった実験すら正確に遂行できないものである。とはいえ、技術の進歩そして精密な解析のできる知性を賛美せずにはいられない。それは私の本能から来ているのであって、因縁や報復によるものではない。
ミトコンドリアにも遺伝子があることは誰もが知るところである。ミトコンドリア自身でも、核のように、転写や翻訳に必要な部品を持っている。tRNAとよばれる、遺伝情報をタンパク質に翻訳していくのに必要なRNAがある。tは転移のtである。このRNAはリボソームへと移動し、遺伝暗号に基づいて、対応するアミノ酸の選択に寄与している。
そのtRNAだが、動物門ごとにアミノ酸に対応する遺伝暗号が異なる、構造が微妙に異なる、といったことで、様々な論文が見られる。とても多くて渉猟しきれるものではないし、論文自体はデータと考察のみなので、ほとんどは無味乾燥な印象しかない。組織や器官や個体の写真は普通ないのである。
このtRNAの「微妙な違い」が出来た過程としては、遺伝子の重複あるいは3倍以上の増幅とランダムな欠失があったのではないか、という考えを、2012年の米国の研究チームが発表しているのを見つけた。当時、改良された遺伝子配列の解析ソフトウェアで、彼等は頻繁なtRNAの喪失を発見したことも踏まえて、仮説を出しているようだ。
また、2020年に米国の別の研究チームがミトコンドリアのtRNAの遺伝子配列を精密な変異導入と活性測定を重ねて見出したところによれば、各アミノ酸に対応するtRNAの配列よりもその立体構造自体が保たれていることが大事で、これが担保されていれば、tRNAが機能するのに必要なアミノアシルシンターゼとの反応は可能なのだという。彼等は、これをリラックスした機能の制約と表現し、中立変異またはほぼ中立変異を受け入れ、自らが不利な変異を得て滅びないようにしていると考えているようだ。
適当にこれらの報告を読み流したに過ぎないが、ミトコンドリアのtRNAに関しては、細部の変化よりも大まかな形に意味があるように思う。ミトコンドリアの遺伝子は酸素呼吸に必須のタンパク質がコードされており、酸素が必要な生物であれば、最低でもその機能を現状維持してもらわないといけない。すなわち、個々の生物種の個性ではなく、生存のための物理的な構造の保守にこそ、意味がある、ということなのだろう。
2つの報告を通して確信してよいことは、tRNAはミクロだが大らかな存在であって、私達の目を見張るような、生物種に特有なマクロな生命現象につながる存在ではなさそうである、ということになるだろう。
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