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第9章:器官の幼生転移および系統樹に関して

<幼生転移以前の幼生転移について>

いままでは表題のように幼生の起源と進化について焦点を当ててきたが、今回は特定の器官も幼生転移と同様に異なる系統の動物間で伝搬されうることを紹介する。

これも博士の考えである。既に紹介した2006年のJournal of the Linnean Societyの148巻の論文では、COMPONENT TRANSFERという項目を設け、その後半で、初期の動物ではゲノムの許容量があるため、複数の起源から成る形質を持つことができ(concurrent chimeraと呼んでいる)、そのため器官などが次々に加わる形で変態をしていく(metamorphosis by addition)。カンブリア紀の動物がこれであると考えているが、これ以降の後期の動物では、ゲノムの許容量がさほどないため、体形の伝搬に留まり(sequential chimeraと呼んでいる)、幼生の形態がこれに相当し、変態も加わる形ではなく順次入れ替わる形(metamorphosis by substitution)になる。


触手冠動物の総担(ふさかつぎ)には、この前者の転移の可能性が高い、と博士は考えている。総担は餌を採る器官で触手から成る冠のように見える。触手冠動物では、一部の外肛動物苔虫類、全ての箒虫動物で見られるが、これに属さないとされる半索動物の翼鰓類でも見られるのである。ただし、触手冠動物に属する大部分の外肛動物と腕足動物には、この総担は見られないのである。例えば、外肛動物苔虫類は、被口綱・狭喉綱・裸喉綱の3種類に分かれるが、総担を有するのは淡水性の被口綱のみであり、海水性の狭喉綱と裸喉綱はこれを持っていない。また、この口器は幼生のそれから続いて発生するものではないこともわかっており、幼生転移が起こった時期より古い時代で複数の系統間での雑種交配に伴う総担の遺伝はあり得るのかもしれない。


<系統樹の存在意義>

博士自身は、とりわけ分子系統樹を乱交の極みと考えているようだ。彼の論文でよく挙げられる分子系統樹は、2002年に発刊したHorizontal Gene Transfer(マイケル・シヴァネン博士の編集による)で掲載している、18SrRNAの系統樹である。脊椎等物と最も近縁なのは、なんと海綿動物と腔腸動物になっているのである。論文として掲載に至らなかった2011年の“Larval genome transfer : hybridogenesis in animal phylogeny”では、いくつかの動物ではその大部分の機能遺伝子が細菌由来であり、これらで動物の形態が作られること、いわゆる遺伝子の水平移動を強調していた。


使用文献

Hybridization in the evolution of animal form and life-cycle Donald I Williamson著 Zoological Journal of the Linnean Scoiety, 2006, 148, 585-602

Larval Transfer in Evolution Donald I Williamson著Chapter32 in Horizontal Gene Transfer 2nd Edition Academic Press 2002年

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