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日本の旅、イタリアの旅 Viaggio in Giappone, Viaggio in Italia

 旅はおもしろい。自分で望んで、観光で行く旅はもちろん、例えば仕事であったり、自分の意思とかかわらず、何か外部的要員事情により(いたしかたなく)出る旅もまた、悪くない。日常とは違う「旅」は、何かと不測の事態も起きる。それが文化も習慣も異なる、言葉の通じぬ外国であればなおさら。もちろん楽しいことばかりではないかもしれない、絶体絶命の危機だってあり得る。命からがら逃げ帰って、もう二度と行きたくない、なんて不幸な例もないとは言えない。

 旅は物語を生む。小説にもなれば、映画にも、音楽にもなる。
 エリーゼ・ジラール監督、イザベル・ユペール主演の「日本の旅(Viaggio in Giappone)」。
ユペール扮するシドニーは、自著の日本での翻訳出版のプロモーションのため、日本にやってくる。だが、どうやらこの旅は、今のシドニーにとって乗り気とは言い難いものらしい。
 予告編を見て、はっとした。昨年の6月に、ローマ日本文化会館で講演会を聞いてから、すっかり大ファンで現在イチオシの漫画家、高浜寛さんの『薔薇が咲くとき』とイメージがそっくり。日本に来る理由こそ異なるものの、やや不器用そうな、すでにやや年を重ね、人生の疲れが檻のように溜まった女性の、自分の意思ではない来日。戸惑いと、自らの置かれた境遇への疑問と、一方的に思われる案内の男性。『薔薇が咲くとき』は、フランスの小説を漫画家したもので、なのでそれはつまり、現代のフランス人が日本に対して持つイメージなのだろう。
 ただ、誰もいない空港、誰もいない京都、誰もいない奈良、誰もいない直島、誰もいないホテル、誰もいないローカル電車・・・は、コロナウィルス感染拡大対策で、また自粛や外国人の入国に大きな制限のかかっていた頃の設定なのだろうか、そうでないならば、最初から最後まで実は「夢」でした、というオチなのかなと勘繰ってしまうくらいにシュールに思えた。今、フランスから日本に旅行に来たら、おそらく全く違う印象になるだろう。
 原題は、「Sidonie au Japon(シドニー、日本へ)」。昨年9月のヴェネツィア映画祭にて「作家週間(Giornate degli autori)」枠で上映された。

 『薔薇が咲くとき』は現在連載中、これはまだまだ、先がどうなるかわからず、楽しみ。

Viaggio in Giappone (Sidonie au Japon)
監督 Elise Girard
出演 Isabelle Huppert, Tsuyoshi Ihara, August Diehl.
仏、独、日本、スイス、2023年, 95 min.

 そう、「旅」人の目は当然、住民やそこに暮らす人の目とは異なる。
この冬すっかりお気に入りの、サンタ・チェチーリア国立アカデミー交響楽団のこの週末の演目のタイトルは、偶然にも「イタリアの旅(Viaggio in Italia)」だった。
指揮は、チェコのJakub Hrůša。
ベルリオーズの「ローマのカーニヴァル」より前奏曲。タイトルらしく、華やかで、ベルリオーズらしく派手な一曲。イタリアでも特に有名な、ヴェネツィアやヴィアレッジョのカーニヴァルの様子をニュースなどで見かけるくらいで、ローマではカーニヴァルらしいカーニヴァルに全く触れていなかったのだが、冬の間の、楽しく、心踊るカーニヴァルに想いを馳せた。
 2曲めは、チェコ出身のマルティヌーによる交響詩「ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画」、アレッツォのサン・フランシスコ大聖堂の主祭壇に、ピエロ・デッラ・フランチェスカが描いた「聖十字物語」にインスピレーションを得て作曲した作品だと言う。ローマ帝国で初めてキリスト教の信仰を許可した、そして自身もキリストの導きにより政敵に勝利することができたとされるコスタンティヌス大帝の母エレナ、カトリック信者であったエレナがエルサレムに赴き、キリストが実際に磔刑された際の十字架を見つけたという伝説を、壁一面に絵巻状に描いたもので、イタリア・ルネッサンスを代表する作品の1つ。
 1954年、ローマを訪れたマルティヌーは、トスカーナ州アレッツォに立ち寄ったらしい。
チェコからナチス政権を流れアメリカに渡り、戦後欧州に戻ったマルティヌーの目に、トスカーナのルネサンスがどう映ったのだろうか。繊細だがきっちりと正確で迷いのない輪郭、線遠近法を捉えた構図、乾いた空気に澄み渡る青空。マルティヌーの「フランチェスカ」はしかし、スパッと竹を割るような音、ではなく、むしろ、白壁の上に丁寧に載せられた多くの中間色を含む淡い色調を、一つ一つ丁寧に取り出し、音に置き換えたような、そんな曲だった。

マルティヌーが主題とした、ピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画

 休憩を挟んで、再びベルリオーズの「イタリアのハロルド」。ヴィオラ独奏つきの交響曲、と言う変わった曲で、後から検索したところ、バイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」という詩に着想を得、ベルリオーズ自身が滞在したアブルッツォ地方をイメージしているとのこと。弦のソロから(大物演奏家であるにはしても)、またこの日のテーマから、聴きながら、てっきりアンデルセンの「即興詩人」を思い浮かべたが、当たらずとも遠からずといったところか・・・。

 外国人によるイタリア愛にあふれた演奏会だった。

Viaggio in Italia
指揮 Jakub Hrůša
ヴィオラ Pinchas Zukerman
Berlioz Il Carnevale Romano, ouverture
Martinů Gli affreschi di Piero della Francesca
Berlioz Aroldo in Italia

11 feb 2024

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