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ローマと、ヴェネツィアのことなど。

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最近の記事

イタリアの、不思議の世界へ~「デ・キリコ展」

 先月の帰国中、体調不良などもあり行きたかったのに行けなかったところなども多々あるのだが、唯一、タイミングよく訪問できたのが、東京都美術館で開催中の「デ・キリコ展」だった。  美術や美術史はもちろん、もしかして世界史の教科書にも載っているかも?誰もがどこかで必ず目にしたことがあるであろう、何か不安を誘うような不思議な絵を描いたジョルジョ・デ・キリコは、1888年のギリシャ生まれだが両親はイタリア人だった。  今から(もう!)20年も前にヴェネツィアで学んだとき、イタリア美

    • 英国で博士号を取るということ〜「赤と青のガウン オックスフォード留学記」彬子女王

       話題の本。ちょっと前にSNSで話題になって、あ、そうそう、これ、私も読みたかったのよねーと思っているうちに、文庫版が決まって、やった!とさっそく手に取った。  オックスフォードの博士課程で美術史を研究する、彬子女王なる方がいらっしゃるのは、ずいぶん前に、たまたま雑誌の記事をお見かけして知っていた。    立場や身分はもちろん、年代も場所もレベルも違う、だけど、同じヨーロッパで美術史を研究されている女王さまというのは一体どんな方なのか、どんな研究をされているのか、興味があった

      • 「怪物」とかぐや姫

         是枝裕和監督の「怪物」を観た。昨年5月にカンヌ映画祭で脚本賞を得たこの作品、イタリアではようやく、今月19日から、全国で公開となった。  家族を中心に人と人間関係の機微を描いてきた是枝監督だが、この作品は、小学校のいじめがテーマになっているからだろうか、また脚本が監督自身によるものではないためかもしれない、前半は特にこれまでとはまた異なる、辛い、苦しい思いでみた。いたたまれない思いでストーリーを追ううちに、やがて、ふとどこかで何かがズレて巻かれてしまったネジを、一巻き一巻き

        • トルチェッロ島の8月15日

           8月15日、日本では終戦記念日のこの日、イタリアは「聖母被昇天の日」で祝日となる。聖母マリアが亡くなって、天に召された日というキリスト教の祝日だが、イタリアでは一般に「フェッラゴスト(Ferragosto)」と呼ばれる。それはキリスト教以前の、初代皇帝アウグストゥスの祝日という意味からきているらしいのだが、鉄を表すフェッロ(ferro)という音に近いせいか、長いこと、鉄のように暑いから「鉄の8月」なのかと思っていた。  もともとこの日は、家族親戚一同集まって昼食を食べる、

        イタリアの、不思議の世界へ~「デ・キリコ展」

          悩ましきローマの夏 2024

           8月になり、ローマの街の中がすっと静かになった。地元の人々は夏休みで海へ山へと出かけてしまい、レストランや個人商店などはシャッターを下ろし、「何日から何日までお休み」と貼り紙がぺたり。スーパーなどが長期で閉まることはないのはありがたく、生活には支障はないけれど、職場の門番さんもお休みで代わりの人が来ていたり。  観光名所はもちろん相変わらずたくさんの人で賑わっているけれど、それでも、連日の猛暑報道が効いているのか、先月までに比べると、心なしか少し減っているような気もする。

          悩ましきローマの夏 2024

          猛暑の夏 2024

           ローマは連日、最高気温37℃くらいの日が続いている。最低気温が24℃くらい、早朝はやや、少し涼しいかな・・・?と感じても、通勤の頃にはすっかり暑くなっている。それでも、日中はずっと空調の効いた室内で過ごし、帰宅してもやはり、どうしてもクーラーをつけてしまう。少なくとも10年、20年くらい前までは、ローマでもクーラーのある家や事務所は少数派だったと思う。分厚い石造りの建物、朝晩の寒暖差が比較的大きく、日本よりはずっと乾燥したローマの夏は、暑いとはいえ、そこここの日陰を選んで、

          猛暑の夏 2024

          「この村にとどまる」と「ルクレツィアの肖像」

           かつてそこには、ふつうの人々の暮らしがあった。チロル地方と呼ばれる高地で、人々は農業や放牧を営んでいた。イタリア北部、オーストリアと国境を接するボルツァーノ県ヴェノスタ溪谷。そう、今でこそイタリア国内のドイツ語圏であるその地域一帯では、古くよりドイツ語が使われていた。  ところが第一次大戦後の1919年、このアルト・アディジェ(ドイツ語で南チロル)地方は、ハンガリー・オーストリア帝国からイタリアへ譲渡される。そこに暮らす人々の意志は全くお構いなしに。そして、イタリアではファ

          「この村にとどまる」と「ルクレツィアの肖像」

          「ヴェネツィアの家族」

           憧れの大先輩、なんて言うと、年齢はほとんど変わらないから、ご本人に怒られちゃうかもしれない。辻田希世子さん、初めてその人の名前を知ったのは、航空会社の会員誌だった。旅先の知られざる名品、おすすめのお土産を紹介するような、といって宣伝やガイドブックとは違ったちょっとしたエッセイで、母がそのページを切り取って、当時ヴェネツィアに暮らして私に送ってくれたり、取っておいてくれたりした。  「ヴェネツィアに住んでいる方のようだけど、知り合い? いつも、文章が何ともステキなのよ。」うん

          「ヴェネツィアの家族」

          卒業の日

           2007年7月11日、ヴェネツィア大学「カ・フォスカリ」を卒業した。・・・というとよく、え、そんな真夏に卒業式があるの?と尋ねられたりするけれど、その当時、イタリアのおそらく多くの大学で、想像するような「卒業式」というのは存在しなかった。今ではヴェネツィア大学でも、1年間の卒業生をまとめて、観光の中心地であるサン・マルコ広場でいわゆる卒業式をやっているようだけれど、正直、大学のほとんどの学生にとってあまり直接的に関係のない広場の卒業式でも何らかの感慨があるのだろうか・・・と

          卒業の日

          「心から両手へ、ドルチェアンドガッバーナ」展

           ゴージャスとキッチュ、カラフルと漆黒、シチリアの伝統とミラノのエレガンス。  いくつもの矛盾が魅力のドルチェアンドガッバーナの展覧会は、イタリア愛にあふれ、手仕事の魅力をこれでもか、とばかりに伝える、期待に違わず、いや、期待以上に楽しい、盛りだくさんの内容で楽しんだ。  「手仕事」をテーマにした第1室。イリアのさまざまな工芸や手仕事を使って、イタリアの各地を見せるシリーズで、最初に目に飛び込んできたのは、ヴェネツィア。ビザンチン文化とイタリア中世美術のミックスが特徴の、黄

          「心から両手へ、ドルチェアンドガッバーナ」展

          三者三様のイタリア

           昨年後半に相次いで店頭に並んだ、イタリアに関わる3冊。 「見知らぬイタリアを探して」  押しも押されもせぬ大御所、内田洋子さんが、ジャーナリストの鋭い視線で、自ら見て歩いて触れたイタリアを「色」を通して語る。週末はもちろん、平日だろうがなんだろうが、毎日観光客が押し寄せ、どこもかしこもごった返しているローマにいて、すっかり忘れている、いや、ほとんどは全く知らないイタリアと、そこに暮らす人々の物語に否応なく引き込まれた。オシャレでステキなイタリアでもなければ、やたら陽気なイ

          三者三様のイタリア

          「言葉と歩く日記」 多和田葉子·著

           日本で、実家近くの本屋さんで手に取って、なんとなくすぐに読まずにずっと手元に置いておいた本。ドイツ語と日本語それぞれで小説を書いている多和田さんの、小説はいくつか読んだけれど、新書も出していらしたとは。「言葉と歩く日記」、それはそのまんま、1月1日から始まる、言葉についての考察を軸にした、日記なのだった。  私自身は、イタリアにいるといっても、最近はほとんど日本語で過ごす毎日で、イタリア語もかなり怪しくなっている。ドイツ語は全くわからないし、イタリア語とドイツ語でどのくら

          「言葉と歩く日記」 多和田葉子·著

          「非居住建築」展

           イタリアのいわゆる主要な「建築雑誌」は、いずれも住宅ー居住空間ーをテーマとしているのだそうだ。”Casabella(美しい家)"、 “Domus(邸宅)”、 “Abitare(住む)”・・・確かに。  毎月、第一日曜日は、国立の美術館・博物館施設が無料になる。ローマならコロッセオやフォロロマーノ、フィレンツェならウフィッツィ美術館などを含み、猛烈に行列するものの、住民、観光客ともに人気ですっかり定着しつつある。国立以外の公立美術館も、これに合わせて無料にしているところも多

          「非居住建築」展

          帝国から教会へ キリスト教考古学入門

           せっかくローマにいるのだから、ローマらしいことをやろう!  そう思いったって、ローマで裏千家のお稽古に通い始めたのは、先日こちらでも白状した通りで、これはまだまだこれから、ひよこどころか、まだ卵がようやく産まれたばかりという状況なのだが、実は、この冬から春にかけてもう1つやっていたことがあった。  「キリスト教考古学入門」講座。たまたま、SNSでふと発見した、教皇庁立キリスト教考古学学校(Pontificio Istituto di Archeologia Cristi

          帝国から教会へ キリスト教考古学入門

          ローマで浮世絵

           「琴棋書画(きんきしょが)」、弦楽器、囲碁将棋、書道そして絵画が、古く文人の嗜みとされ、「琴棋書画」そのものが、画題として日本でもよく描かれたという。お恥ずかしながら知らない言葉だったが、歌川豊春や、歌麿の細やかで美しい作品がいきなり現れ、おっ!と身構える。  たくさんのイタリア人や外国人のビジターらが熱心に解説を読み、作品を見学する中、こちらも負けじと、作品の間近に寄ってはじーっと観察し、スマホに写真を収める。もともと、風俗画や屏風絵など、人々の生業を細かく描いた絵画に

          ローマで浮世絵

          春の1日

           数日前に、誕生日を迎えました。もう華々しく祝う年でもないし、・・・と思っていたけれど、SNSなどでメッセージをくださった友人のみなさま、ありがとうございました。こちらからは、最近はすっかりごぶさたしてしまっているのに、申し訳ないやら、やっぱりちょっとこそばゆいやら、でした。  自分への「プレゼント」は、「お休み」にしました。「無し」といういう意味のお休みではなく、「休息」という意味のお休み。ちょうどその頃まで、いろいろと追われてしまい、何かこの機会に欲しいものだったり、あ

          春の1日