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「心から両手へ、ドルチェアンドガッバーナ」展

 ゴージャスとキッチュ、カラフルと漆黒、シチリアの伝統とミラノのエレガンス。
 いくつもの矛盾が魅力のドルチェアンドガッバーナの展覧会は、イタリア愛にあふれ、手仕事の魅力をこれでもか、とばかりに伝える、期待に違わず、いや、期待以上に楽しい、盛りだくさんの内容で楽しんだ。

第1室 手仕事をテーマに、イタリアをめぐる

 「手仕事」をテーマにした第1室。イリアのさまざまな工芸や手仕事を使って、イタリアの各地を見せるシリーズで、最初に目に飛び込んできたのは、ヴェネツィア。ビザンチン文化とイタリア中世美術のミックスが特徴の、黄金のモザイクと、国際ゴシックのフリフリごてごてが魅力のヴェネツィアは、ケバだった生地や金糸を効果的に使った織りや刺繍で、そのごちゃごちゃ感が見事に表現されている。ヴェネツィアの風景に欠かせない、ゴンドラと水面と、全てがゆらゆらと揺れ動いている。

奥にヴェネツィア、手前にフィレンツェ


 一方、ルネサンスの街フィレンツェでは、ピンク、モスグリーン、白とパステルカラーの大理石で作り出した教会のファサードの表面はつるつると平らで、ここでは、それをサテンシルク地のアップリケというのか、パッチワークで描いていて、この街を取り囲むトスカーナ週末の、なだらかで美しい郊外の風景とともに、その空気感までもを表している。
 初めてイタリアにきたときに、この2つの街のあまりの違いに、どちらも限りなく美しく、そして比較しがたくどちらも好きだと思った、そのときの印象そのままの姿がそこにあった。

ヴェネツィアのサン・マルコ大聖堂

 いきなり、ガッツリと鷲掴みにされたところで、2つ目の部屋のテーマは、ガラス。美しい吹きガラスの花たちを使ったシャンデリアは、ヴェネツィアのムラノ島を代表する工芸品で、何百年にわたり世界中の人々を魅了してきた。そのガラスの花たちを全身にまとったマネキンたち。ときおり、ガッシャーンとガラスの割れるような音がしてドキッとするが、それは演出の一つらしい。ファッションショーという、ショウを年に何度もオーガナイズしてきた彼らにとって、見せる、ことはすなわち、音も演出も伴うのが自然なのだろう。

第2室は、ガラスの間


 部屋ごとに、色も光も音もテーマもがらりと変わって、進めば進むほど、次は何?とまたドキドキさせられる。

イタリアの名画シリーズ


 イタリアの街シリーズとともに、イタリアの名画シリーズもまた、ややもすると、観光地のお土産品のような、安易なアイディアのようでいて、これまた一つ一つのこだわりが、ただただすごい。息を飲んでは、ため息をついたり、クスリと笑いがこぼれたり。

彼らのアイコンのひとつ、シチリア伝統カラーも欠かさず


 そして実は、個人的に今回のメイン·テーマであったモザイク·シリーズ。2017年のシチリアのモンレアーレ大聖堂、2021年にヴェネツィアのサン·マルコ大聖堂にインスピレーションを受けて制作·発表したシリーズは、それぞれその写真や映像では見ていたし、そのあと、お店のウィンドウなどでも見て気になってはいた。今回、わざわざこの展覧会のために、ヴェネツィアのモザイク工房が参加していると知り、これはもう、ぜひとも行かなくては、と思っていた。
 これまたバカバカしい程の力の入れよう。モンレアーレ大聖堂内には、この聖堂を建てさせたノルマン王グリエルモ2世の肖像画、聖母に大聖堂を捧げる姿で描かれたモザイク画があるのだが、今回の展示では、わざわざその肖像画風のモザイクを制作している。ノルマン·ビザンチン風に描かれたその聖人は、よく見ると手に、この展覧会場のすぐ近くにある、ミラノのドゥオーモを抱えている。

ミラノの大聖堂を腕に


 同時に、マネキンたちの並ぶステージの、壁3面にはびっしりと黄金のモザイクが張り詰められ、モザイク画をモチーフにした服を纏ったマネキンたちが、あたかも、モザイクの中にいるかのような錯覚に囚われるのだった。

オペラをモチーフにした作品の展示は、劇場風に


 カラフルで華やかな、「オペラ」をテーマにした部屋に続き、最後は金糸のレースを纏った聖母像。
 ミラノの人なら誰もが知る、大聖堂のてっぺんにおわしめす金色の聖母像「マドンニーナ」からインスピレーションを得た、金糸の総レースのドレスは、ドルチェ&ガッバーナを育み、その土台であり続けるミラノの街へのオマージュなのだった。

ミラノの聖母に捧ぐ

 ミラノのファッション·ブランドといえば、わかりやすく比較対象となる、洗練されてエレガントでシックなアルマーニと異なり、あえてシチリアの泥臭さやケバケバしさを強調するドルチェアンドガッバーナは、潔くわかりやすく派手で、その分、うっかりすると下品でダサダサになるはずなのに、ギリギリのところでそれらを全部ひっくるめてハイブランドを確立したところに、彼らの強みがある。そしてまたここでも、シチリアは彼らのアイデンティティの一つ、だが、最後はきっちりミラノで〆る、その落とし前というのか、義理人情的なところがまた、彼ららしさだと思った。

 そんな彼らの魅力を最大限楽しめる展覧会で、これが全部ではない、集大成では決してない、むしろ次はいったい何が出てくるんだろうと、ますます期待が高まった。

Instragramでたくさん写真を公開していますので、ご興味ある方はぜひ。
https://www.instagram.com/fumitaly/

Dal cuore alle mani. Dolce & Gabbana exhibition
7 aprile - 31 luglio 2024
Palazzo Reale, Milano
https://milano.dolcegabbanaexhibition.com/it/

26 maggio 2024
#イタリア #ミラノ #展覧会めぐり #ファッション #ドルチェアンドガッバーナ #モザイク #エッセイ  


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