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ローマで浮世絵


 「琴棋書画(きんきしょが)」、弦楽器、囲碁将棋、書道そして絵画が、古く文人の嗜みとされ、「琴棋書画」そのものが、画題として日本でもよく描かれたという。お恥ずかしながら知らない言葉だったが、歌川豊春や、歌麿の細やかで美しい作品がいきなり現れ、おっ!と身構える。

 たくさんのイタリア人や外国人のビジターらが熱心に解説を読み、作品を見学する中、こちらも負けじと、作品の間近に寄ってはじーっと観察し、スマホに写真を収める。もともと、風俗画や屏風絵など、人々の生業を細かく描いた絵画に妙に惹かれるのだが、特に装束を細かく描き込んだものが好きで、着物の柄やその合わせなどの美しさに驚嘆する。



 踊、歌舞伎、花街、娯楽・・・と、流れるようなテーマに合わせ、浮世絵や軸、絵巻などが並ぶ。これらの絵画作品は、ジェノヴァのエドアルド・キヨッソーネ美術館から、そこに、ヴィンチェンツォ・ラグーザ・コレクションから、碁盤や楽器、タバコ箱や装束品などの工芸品が並ぶ。キヨッソーネ、ラグーザとも、「お雇い外国人」としてイタリアから明治政府に招聘され、前者は当時の大蔵省造幣局で、お札や切手印刷のための銅版画技術、後者は工部美術学校で彫刻を指導した。生涯を日本で過ごし、日本で亡くなったキヨッソーネは、日本で集めた美術・工芸品を地元ジェノヴァに寄贈、現在のキヨッソーネ美術館に至っている。妻、お玉を伴って帰国したラグーザは、自らの日本コレクションをローマの民族博物館に寄贈。同博物館は残念ながら2016年より閉館しており、今回の展示は、同コレクションを知る良い機会ともなった。


 今回の「浮世絵」展、展示や解説もわかりやすい。さらに、浮世絵をはじめとする日本の作品や工芸品などの展示は、作品保護のため、照明がかなり落とす必要があり、えてして地味になりがちのところ(そしてもちろん、本来は派手にする必要は全くないのだが)、構成と会場デザインの工夫により、華やかで目をひく、興味を次へと継続させる仕組みがうまく働いている。


 後半のテーマは、江戸(街)、そして旅(風景)。


 もはや、おそらく「日本」のシンボルとして世界中に知られているであろう「神奈川沖浪裏」が、最後の最後のハイライトとして登場するが、これは初めて見る方にはきっと、ルーヴルの「モナリザ」と同じ効果をもたらすのではないか。そう、よく知っている、何度も何度も、そして特に、今回の展覧会でもポスターなどのヴィジュアルとして目にしているあの「大波」が、実は思っているよりもずっと小ぶりな、むしろ繊細な作品だと知ることになる。


 注目の一点を際立たせつつ、同時に、この作品が多くの風景画のシリーズもののうちの1枚であること、だからこそ、このサイズなのだと納得のいく、自然な流れがここでも作られていた。
 それぞれの質もさることながら点数が多く、美術好き、日本マニアにとってもかなり満足度の高い展示であることに加えて、冷やかしとは言わないまでも、なんとなく「神奈川沖浪裏」のヴィジュアルに惹かれてやってきたビジターをも飽きさせない、良い展覧会だった。



UKIYOE. Il Mondo Fluttante. Visioni dal Giappone
Museo di Roma
20 feb - 23 giu 2024

1° apr 2024


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