見出し画像

「怪物」とかぐや姫

 是枝裕和監督の「怪物」を観た。昨年5月にカンヌ映画祭で脚本賞を得たこの作品、イタリアではようやく、今月19日から、全国で公開となった。
 家族を中心に人と人間関係の機微を描いてきた是枝監督だが、この作品は、小学校のいじめがテーマになっているからだろうか、また脚本が監督自身によるものではないためかもしれない、前半は特にこれまでとはまた異なる、辛い、苦しい思いでみた。いたたまれない思いでストーリーを追ううちに、やがて、ふとどこかで何かがズレて巻かれてしまったネジを、一巻き一巻き解き、辿りなおしていくうちに見えてくる異なる事実。
 真実と誤解。「誰もが皆いい人で、ほんとうは悪くない」、のではない。誰もが皆、それぞれ一生懸命だけれど、ほんの少し嘘をつく。見て見ぬふりをする。自分を守るために。自分の大切な人を守るために。大人と子ども、家庭と学校。教師と児童、親と子。大人と大人、子どもと子ども。時に対立し、時に共犯関係を築く。
 立場によって異なる証言をする、いわゆる「羅生門」のスタイルだが、現代(日本)社会を、見事にリアルに写し出している。脚本賞も納得の、ほとんどミステリーのような恐怖とドキドキを呼ぶストーリーに、是枝監督ならではの、子どもたちが文句なくすばらしい。前半、是枝監督独特の詩的情緒が少ないかもと思って見ていたが、終盤で一気に、その詩がうわーーーっと押し寄せた。
 音楽は坂本龍一、彼の最後の作品となった。

L’Innocenza
怪物
監督 是枝裕和
脚本 坂本裕二
出演 安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子
2023年、99分

 備忘録が遅くなったが、7月の終わりに、「かぐや姫の物語」を観た。
昨年夏にはジブリ特集をやっていたイタリア映画界、今年は、ジブリの中でも高畑勲監督特集が組まれていて、公開当時より観たいと思って見逃していたこちら、今度こそと思って劇場に足を運んだ。
 こちらは言うまでもなく、映像の美しさにただただ、見惚れた。パステルタッチのシンプルなラインと鮮やかな色、その「手仕事」感から、意外にも思われるほどのスピーディさはアニメーションだからこその表現でもあり、竹林や桜吹雪、里山の風景から色とりどりの反物まで、その絵にそのまま包まれているような気すらした。やはり劇場で観てよかった。
 勧善懲悪のはっきりした物語の中で、醜くあざとい求婚者たち以上に、竹取の翁の、人の変わりようが悲しくも哀れで、玉手箱のような美しい物語の中に、一筋の涙を残した。

 いずれも、日本語版・イタリア語字幕付きで鑑賞。イタリア語吹き替え上映も行っており、正直のところどちらも鑑賞者が多いとはいえない中、こうして原語版上映を続けてくれているのはとてもありがたい。

La storia della Principessa Splendente
かぐや姫の物語
監督 高畑勲
出演 朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子
2013年、137分、日本

24 ago 2024

#怪物 #かぐや姫の物語 #是枝裕和監督 #高畑勲監督 #映画 #日本映画 #映画鑑賞  #ローマ #ローマの夏 #イタリア  


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?