過去を捨てた女達 6 雨の日の決意
雨が激しく叩きつけるような中でも、息子にカッパを着せて自転車の荷台に乗せて、聡子はカッパきて雨の中を走りぬける。
保育士さんの言葉が頭の中にこだまする。
もっと旦那さんに頼っていいのよ
1人で頑張らないで。
頼れるなら、もうとっくに頼っている。
口では、何とでも言うが、何にもしてくれない。
いや、それをするとかなり面倒臭いのだ。
君が仕事を休めばすむことでは?
僕は毎日忙しいんだよ。
その言葉に抹殺される。
だから結局、頼らない。
いや、頼れない。
どんなに大変でも、なんとかして保育園に行かせる。病時保育園を利用する
たかが非常勤だが、されど非常勤。保育園に入れたのだ。仕事を辞めるわけにはいかない。
仕事はある決意の源になるからだ。
どんなに大変でも、辛くても、旦那に頼らないために。旦那と別れるために、必要不可欠だからだ。
雨の中、余計にその決意を胸に刻みながら、
保育園に向かう。時折、雨のしぶきが、
目に入る。それでも、自転車を漕ぐことはやめれない。
聡子は一通り話すと、注文してたジンライムを手にして、一口飲んだ。サッパリとして味が、口の中に広がる。
ふとバーテンダーは聡子に聞いた。
「雨は嫌いですか?」
「今は嫌いではないわ。むしろ好きよ」
聡子は、そう言うと残りのジンライムを飲み干した。
「不思議ね、ずっとその残像が残っていたんだけど、話したら本当に捨てたような感覚になったわ」
外にでると、まるであの時の雨の激しさになっていた。傘をさしても、雨が斜めに降っており、洋服を濡らす。
でも、あの時の悲壮感も、頑張りも今はない。
あるのは未来だけだから。
そう改めて感じながら、歩いていると、雨は次第に弱くなり、向こうの雲から晴れ間が出てきた。
黒猫は、雨の上がったのがわかっていたのか、バーの中にいたのにいつの間にか外に出てきた。
晴れ間の光が聡子を輝やかせているようにキラキラと眩しくみえ、黒猫はそんな聡子を見送りながら、またそっと目を閉じた。
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