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「買い物」行動は消えるのか?

普段はEC領域のデザイナーをしているのですが、今日は、「お買い物」について、少し書き留めておきたいと思います。

最近では、GAFAやBATをはじめとする大企業たちが、様々なサービスのプラットフォームになっていることはもはや常識であり、IT市場を席巻しています。ちょっとdysonを検索しようものなら、すぐにdysonの広告や商品のレコメンドが表示されるようなことには、もうすっかり驚かなくなってきた方も少なくないでしょう。

IT企業で働いていると(ーそれが比較的大きくて閉じた企業であれば特にそうなんじゃないでしょうか)、将来はきっと、

「いつも生活を共にしているAIが、私たちの購買欲を(空気を読みつつ)汲み取ってレコメンドしてくれるようになる。だから、わざわざ店舗に足を運んで買い物なんてしなくなる。だってその方が便利だもん。」

なんて思ってしまっている時期がありました。

もちろん、確かに間違いなく、平成の前半くらいまでのような純粋な買い物行動はなくなるんだろうなと思います。特に日用品なんかの購入は、定期的に必ず買わなければいけないし、だいたいいつも買うものはパターン化してくるし、彼氏彼女とデートした帰り道にトイレットペーパーとか持って歩くのはなんか萎えるわーみたいなことがあるから、私は間違いなくネットで買い物を済ませることを(総合的に評価した上で)選択してしまいます。


でも、本当に「買い物」行動がなくなるでしょうか?

「買い物」行動がなくなるとしたら、都市の中でどんな目的を伴う移動が生き残るでしょうか?


一般に、SCなんかでよく2核1モールなんてことが言われますが、人は何らかの目的があるときに、移動します。駅など(核)から任意の都市に入り、目的地(核)まで移動をして目的の、あるいは目的に付随する目的の時間を過ごして、また戻るといった具合にです。
「新宿の伊勢丹で服を買おう」というような場合は想像に易いですが、目的自体は柔軟で「ただ何とは無しに歩きたい」というような場合も移動を生みます。(ーもしかしたら目的ではなく欲望と言った方が良いかもしれません)実空間で移動する場合には、時間も体力も消耗するので、お買い物だけに費やす時間はある程度限られてしまいます。

一方で、ネットショッピングの場合には、サイバー空間で移動が生まれます(ー抽象的には空間における移動と同じ移動だと私は思います)。
何らかの目的があるときに、Googleなどの検索プラットフォーム(核)から、任意の単語で検索するなどして、次の目的地(核)を探索します。「NIKE メンズ シューズ」と検索して、「ZOZOTOWN」(に遷移すること)を選択するといった具合です。
サイバー空間では、検索結果から、あるページを選択するということが、空間で言えば移動にあたりますが、この空間で移動する場合には、さほど時間も体力も消耗しないので、実空間で色々見て回るよりも、よりたくさんの移動をすることができ、よりたくさんの目的(例えば、欲しい服を見つけること)を達成することができます。

私たちが完全合理主義に徹底した人間であれば、買い物はネットでした方が圧倒的に効率的で、合理的です。

でも、本当に、街で友達や彼女彼氏と話しながら、お店を回ったり、スーパーで食材を手に取り吟味してお買い物をすることはなくなるでしょうか?

私は、(現時点では、)少なくとも私が生きている間には、きっとなくならないと思います。
EC市場が当たり前になって、ネットで簡単にお買い物ができるようになったことは、私たちの「買い物」行動がなくなるということではなく、私たちの「買い物」行動において、それまでの純粋な買い物と、同等に比較できる「買い物」方法の選択肢を増やし、多様な「買い物」を実現したと理解するのが適切なのではないかと考えています。

ティッシュペーパーのような日用品の購入が効率的に行えるようになったことで、私たちは、自由に使える時間が増えたのです。問題は、その時間をどのように、各個人が自身の価値観の中で、自身の活動に再び割り当てるのか、ということです。
EC市場のUXデザイナーは、いかに、この時間の再配分の中で、より多くのユーザーに自分たちのサイトに時間とお金を割いてもらえるか、ということを、(抽象的だけれども、)ちゃんと考えなければいけないのではないかと思います。

友達と話しながらお店を回るのもそうなんですが、やはり誰かと同じ時空間にあって、同じ体験を共有するということ(ーもちろん物でも同じです)が、リアルな空間において移動を伴う一番の目的であるように思います。その顕著な例は、食事です。食事は、移動をすることで、レストランで(同じ場所で)、一緒に食べて(同じ時間に)「美味しいね」とか「辛いね」とか話したいという欲求を満たすことが出来る行動目的の一つだからです。

サイバー空間での移動は、どんな目的によるものでしょうか?

どんな文脈の中で発生し、そして私たちは、そのときにどんな本質的な価値を提供できるでしょうか?

私たちデザイナーは、こういう先見的な視点を持って、抽象的なテーマと、具体的な細部のデザインに思考を凝らしながら、デザインを考えて行くことが重要だと私は思います。


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