『らしさ』ショートショート1
「最近のお前はさぁ、なんていうか、らしくないぞ。元気ないのか?ん?冗談言ったり、笑顔振りまいたりするのはどうした?営業成績にも出てるぞ。悩んでることがあるなら話してすっきりさせよう」
今までは達成できていた営業目標の未達が続き、部下の業績達成が上司の評価に繋がることもあって、上司が声をかけてきた。
「いえ、大丈夫です。今月は必ず達成してみせます」
「そうか。じゃあ、明日までに達成させるためのプロセスまとめて、形式は何でもいいから俺に提出してくれ」
「わかりました。明日までに提出します」
3年連続で達成してきた経験があるワタシには、達成するために何が必要かは大体分かっている。プロセスをまとめることくらい朝飯前だ。
問題は別にある。さすが上司と言うべきなのだろうか。ワタシの心に外角高めのボール球ではなく、ど真ん中にストレートで投げ込んできた。
*
「ちょwおまw伝書鳩先輩ってw」
「笑い過ぎてお腹痛いw」
「さすがw今日も調子いいな!」
思ったことをつぶやいただけなのに、ワタシのツイートには今日もこんなリプライが飛んできている。
「明日もこの調子で頑張ります」
そう返すと、たくさんの”いいね”が送られてきた。
見ず知らずの誰かからすると、どうやら今日もワタシは悩みなんか感じられず平常運転らしい。
これでいいのかもしれない。
*
「昔と変わった?なんか私が知ってるイメージと違うなぁと思って。そんなにアクティブだったっけ?あの頃は周りがワイワイしていても一緒に何かしようはとしてなかったと思ったけど」
会社の同僚と休みの日に出かけて撮った集合写真をInstagramに載せたところ、高校のクラスメイトからコメントが返ってきた。
「え?そうだったっけ?ちょっと忘れちゃったなぁ。こんな感じだよ!」
誤魔化しながら、コメントを返す。
「そうだったかなぁ。まぁいっか。元気そうで何よりだね!」
思っている以上に彼女には衝撃が走ったようだった。
会社の同僚が見るからにイケイケな雰囲気だから尚更そう思えたのだろう。
たしかにあの頃は、彼女の言う通りだったと思う。ワイワイしている、やんちゃしているようなグループを遠目で見ているような存在だった。
今のワタシは、何者なのだろうか。
*
「もしもし、どうしたの?久しぶりだね。忙しいかもしれないと思っていたからこっちから連絡しなかったけれど、それにしても最近全然連絡もくれなかったじゃない。ちゃんとご飯食べてる?会社の飲み会は多いの?しっかり休めてる?最近は何しているの?何か楽しいことあった?困ったことは?」
久しぶりに連絡をすると母親はこんな調子で、これまでの時間を全て埋めるつもりなのか、質問を畳みかけてくる。
「あー、ごめん!全然電話出来てなかった。久しぶり!ちゃんとご飯食べて、ぼちぼちやってるよ!」
母親の勢いに合わせて、こちらも勢いで返す。
「それならいいんだけど。忙しくてもご飯はしっかり食べてね!それはそうと、何か悩んでることがあるんじゃない?言ってごらん」
連絡するのが久しぶりなので、感づかれて当然と言えば当然なのだが、こちらから伝える前に質問された。
「いやぁ、その、何ていうか、自分らしさって何だろうって思ってて。どんな姿が自分らしいのかなって」
「自分らしさ?誰かにらしくないとか言われちゃったの?そんなこと気にしなくていいのよ!私から見た"あなたらしさ”もたしかにあるけれど、それは別に私から見たあなただから。
当然、他の人があなたを見たときの”あなたらしさ”もある。関わる人の数だけ、その人があなたに求める理想の”らしさ”はあるものよ。
いちいち気にしていたらキリがない。”自分らしさ”はその時々の自分に素直に生きていくことでいいのよ。だから気にしなくていい!」
さすが、学校の先生をしているだけあって、説得力がある言葉だった。
なるほど、”自分に素直に生きる”ことが”自分らしさ”か。他人がワタシに言う”らしさ”は、その人たちがワタシに抱く理想の姿なのか。
「あ、ありがとう。そっか、素直に生きればいいのか。どれが本当のワタシなのか分からなくなってたけど、今の話で分かったよ」
「そうよ!喜んだり、はしゃいだり、悲しんだり、落ち込んだり…あ、同じね。色んな姿があっていいの。全部あなたなんだから」
「色々ありがとう。明日から頑張っていけそう!また何かあったら電話するね」
「何かなくても連絡してきなさい!じゃあ、またね」
それぞれの理想の姿になりたい気持ちがないわけではないけれど、全てに対応していたら自分が自分じゃなくなってしまいそうだ。
自分に素直になろう。素直に生きよう。ワタシ、らしく。
*
「よぉ!昨日の宿題やってきたか?プロセス、見せてみろ!」
「こちらです!ちなみに先輩、もう4年も一緒なので無礼講ってやつで言いますけど、ワタシのプロセス見て部長にそのまま伝えるだけだったら、伝書鳩先輩って呼びますよ。
だいたいのことは一人で出来ますが、上司として就いて頂けるなら色々アドバイスしてほしいです!」
「お前…、また冗談言えるようになったのはお前らしいけど、伝書鳩先輩って…。周りに言うんじゃないぞ!これからはちゃんと面倒みるから、今月は絶対達成だからな!」
"会社の人"には伝書鳩先輩って言ってないから大丈夫かな。
「はい!周りには言いません!頑張ります!今月もよろしくお願いします!」
【完】
■あとがき
ショートショートを書く習慣はなかったのですが、先日、「日替わりテーマnote、はじめます」なんて豪語して、「日曜日はショートショート」と決めてしまったものだから…
書き方の本とか読み漁って、まず書いてみました。
書いてみて「難しい」の一言に尽きます。
構成やら、読みやすさやら、緩急やら…色々考えることがありますね。
突貫工事ですみません…。
これからも勉強していきます。
また来週の日曜日に更新出来るように今週も頑張ります!
■アーカイブ
他の作品はこちらから!
この記事が参加している募集
「ワクワクを届け続ける、オラ(私)に現きn…元気を分けてくれ!」いただいたサポートはさらなるワクワクの発信に活用させていただきます!「ワクワクすっぞ!」