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銀行のキャンペーン、どうやって企画するの?〜銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書〜

銀行のマーケティングと営業企画について、実務的に学んでいく本シリーズ。
今回は、企画1年生が担当することが多い、「キャンペーン」について学んでいきます。

着任早々、キャンペーンの企画を命じられた

4月の人事異動で営業店より営業企画部に着任した、入行4年目田口くん(仮名)。配属して1週間が経過しました。

上司:「田口さん、ちょっといいかな」
田口:「は、はい」
上司:「今回、田口さんには、8~9月に予定しているカードローンのキャンペーンを企画してほしいと思ってるんだ。現場の発想で、新しいアイデアを考えてみてよ。」
田口:「は、はい、承知しました。」
上司:「過去にもキャンペーンはいろいろやってるから参考にしてみて。何か質問あるかな?」
田口:「い、いえ、今のところはありません。」
上司:「それじゃ、よろしく頼むよ」


田口:「えっと、過去はどんなキャンペーンやってたんだっけ。」
   「契約してくれたお客さま全員に”1,000円プレゼント”。」
   「うわっ、しょぼ。こんなんじゃ、誰も申し込まんわ。」
   「そうだ、思いついたぞ!”ハワイ旅行ペアご招待”にしよう!」
   「これなら、インパクトあるし、目立つチラシも作れる!!」
   「オレって企画センスあるー!」


はじめに断っておきますが、これは田口くんが悪いわけではありません。はっきり言って上司が最悪です。仕事の目的も、進め方も、期限も提示せず、ただやっておけと指示するだけ・・・あれ、もしかしたら私自身もこんな感じだったりするような・・・

手順① キャンペーンの目的を押さえる

尼田:「おーい、田口くーん!」
田口:「うわっ!あ、あなたは誰?」
尼田:「久しぶりー!ほら、前世で一緒に仕事した先輩だよー。あの時は仕事ちゃんと教えてあげられなくてごめんよ。」
田口:「ぜ、前世・・・てことは、今はあの世・・・」
尼田:「ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ、とりあえず仕事片づけちゃおうよ。」
田口:「は、はい。わかりました。」
尼田:「あのね、すべての上司の指示には『上位概念』ってのがあるんよ。」
田口:「『上位概念』?何ですかそれ?」
尼田:「つまりね、上司がその指示には背景や課題が必ずあるってこと。それをちゃんと理解しないと、そもそも間違ったキャンペーンを企画しちゃうよ。」
田口:「えー、それは、今期のカードローンの獲得目標達成するためなんじゃないんですか?」
尼田:「そうとは限らないよ。だって、中計の目標では、カードローン残高を50億円増やすことになってるけど、現状まだマイナスだよね。支店長会議で配られた年度方針にはなんて書いてあるかな?」
田口:「えっと、あ、ありました。『来店顧客・Web双方からの新規先獲得と、既存先の利用促進をバランスよく展開し・・・』ってあります。
尼田:「そうそう、目的は残高を増やすことだよ。さらに言うと、どうしてカードローンの残高を増やさないといけないのかな?それは、年度方針のさらに上位概念である『中期経営計画』を確認してみて!」
田口:「『お客さまの一人ひとりの金融ニーズに応えることで、・・・結果として当行の収益につなげる』って書いてあります。」
尼田:「そうだね、その部分。まずは、そうした全体像を把握しておく必要があるよ。ちなみに、今朝上司の〇〇さん、△△常務に呼ばれて、カードローン残高のテコ入れが必要じゃないかって指摘されてたみたいだよ。」

解説

およそ20年前、「上司は思いつきでものを言う」(集英社新書)って本がベストセラーになりました。上司の指示には、必ず指示に至った背景や課題があるはずです。唐突であれば唐突であるほど、そこをよく理解して仕事を進めていく必要があります。

上司のさらに上司から、プレッシャーを受けただけってことも、実はよくあります。そもそも目指す姿はどこなのか、目指す姿に向けて現状とどのくらいギャップがあるのかをしっかり掴んでおくことが企画を進める第1歩となります。

今回の事例では、カードローンの残高増加に主眼を置くと、時間のかかる新規先の獲得より、既存カードローン先の極度額増額(いわゆるランクアップ)や利用促進に注力する方が効果的といえます。

田口くんは、はじめから新規獲得キャンペーンと決め込んでいました。そこは上司にしっかりと確認をしておくべきでしょう。

また、内外環境によってはそもそもカードローンに注力すべきではないタイミングという可能性もあります。例えば、コロナ禍でほぼすべての飲食店が閉まっていた時期を思い起こしてください。あの頃、お客さまに消費のニーズはあったでしょうか。

この場合は、『お客さま一人ひとりの金融ニーズに応える』という、中計、あるいはさらに上位の企業のビジョン・パーパスに立ち返り、施策の実施可否や代替策を検討していく必要があるのです(企画1年生じゃ難しいよね)。

手順② キャンペーンのターゲットを明確にする

田口:「尼田さん、上司に確認したところ、今回は新規獲得を切り口に検討を進めてほしいって言われました。夏休みの後半から9月にかけてって、カードローンの残高が伸びる時期なんですね。」
尼田:「ああ、いいところに気がついたね。でも、それなんでだと思う?」
田口:「やっぱり、夏休みに遊んじゃうからでしょ。気がついたら、財布の中がさみしくなるみたいな・・・」
尼田:「そうそう、そうやってお客さまの気持ちを想像してみるのが大事だよ。ところで、カードローンを借りる人ってどんなタイプの人だと思う?」
田口:「それは、あまり考えてなかったですねぇ・・・やっぱり、収入の少ない僕みたいな若い人が多いのかな。でも、あまり周りにローン借りている人いないですよね。」

解説

10年以上前のことですが、今でも忘れられない出来事があります。とあるキャンペーンの景品を受け取った80歳を超えるおばあちゃんからの電話。
「なにやら、自転車が届いたんやけど、私、もうこの歳だし、乗ることはできんから引き取ってもらえんかのう・・・」
その年の「資産運用キャンペーン」の景品に、マウンテンバイクが採用されていたのです。しかも、応募不要で銀行が勝手に抽選。親切にも「当選の発表は発送をもって代えさせていただきます」としていたのです。

この話の教訓は、あまりにもお客さまを想像できていなかったこと。
キャンペーンを利用するお客さまの姿をしっかりと頭に思い浮かべる必要があります。その際には「ペルソナ」と呼ばれる典型的な人物像を作り上げることが重要です。
「ペルソナ」の設定方法はこちらの記事が参考になります。

この記事を書くにあたっても、「入社4年目田口くん」といくペルソナを設定しました。

  • 田口くん(入社4年目26歳、県内某大学卒業後新卒で採用)

  • 営業店経験3年を経て、かねてより希望していた営業企画部へ晴れて配属

  • 典型的なZ世代で、コスパ・タイパを求めるタイプ。一方、承認欲求は強い

  • 銀行でキャリアアップした後、実は数年後の転職も視野に入れている

  • お金に対して、自身は保守的で堅実

田口:「尼田さん、当行でカードローンを借りている人は、40代から50代の男性が一番多いようです。」
尼田:「ちょうど僕と同じ世代だね。20年前は、20代の若者が一番借りてくれてたんだけどなぁ・・・Z世代は借りなくなっちゃったね。ところで、40代から50代の働き盛りが、『ハワイ旅行』当選して、海外いけるかね?」
田口:「あれっ!」

続きは次回(↓こちら)!


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