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銀行のキャンペーン、ターゲットはどうやって深掘る?〜銀行の「マーケティング」と「営業企画」の教科書〜

銀行のマーケティングと営業企画について、実務的に学んでいく本シリーズ。
「カードローンの新規獲得キャンペーン」の企画を任されることになった田口くん。
前回は、
手順① キャンペーンの目的を押さえる
手順② キャンペーンのターゲットを明確にする
を学びました。今回は、果たして、企画書の作成まで進むことができるでしょうか?

手順③ ターゲットを深掘りする

田口:「尼田さん、今回は40代から50代の男性をメインターゲットにしたキャンペーンを考えてみたいと思います。尼田さんと同世代ですよね。」
尼田:「あー、確かにその通りではあるのだけど、あまりおじさん扱いしないでね(笑)」
田口:「早速、40代の男性が好きそうなものを調査してみたいのですが・・・」
尼田:「いや、ちょっと待って、田口くん。40代の男性って言っても、いろんなタイプの人がいるよね。例えば、A課長は毎晩、中洲で遊んでそうな雰囲気あるけど、B次長は家族第一でおとなしい性格。カードローンは、どっちのタイプが使ってくれそうかな?」
田口:「それは、間違いなくA課長ですよね」
尼田:「だよね、それじゃA課長イメージしながら、一緒にカスタマージャーニーを考えてみよう。」


カスタマージャーニーの書き方は、この記事がすばらしいです!


解説

カードローンのお客さまには、大きく3つのタイプのお客さまがいます。1つ目は、「消費大好きタイプ」のお客さま。このタイプのお客さまは、「手続きが簡単」「返済が便利」「すぐに借りられる」といった簡単・便利・早いといった訴求が響きます。安易な借り入れの助長は慎むべきですが、ニーズとしては確かに存在するのです。
2つ目のタイプは「本当は借りたくないタイプ」のお客さま。3つ目のタイプは「比較検討タイプ」のお客さまです。
どのタイプのお客さまをペルソナとして考えるかで、キャンペーンの訴求ポイントも大きく変わることになります。

さて、BCG出身のコンサルタント、高松智史さんの書籍「コンサルが『最初の3年間』で学ぶコト」の中で、「ワイン会社の売上向上施策を考えるプロジェクト」の事前準備(HOWのインサイト)の具体例が挙げられていました。大変参考になりましたので引用させていただきます。

  •  実際にクライアントや競合のワイン屋さんに行って、自腹でワインを何本か買ってみる

  •  ワイン関連の業界誌を過去2年分買う

  •  社内のワインに詳しい仲間にヒアリングする

  •  漫画「神の雫」を読む

  •  業界誌の購入をきっかけに、業界誌の担当者と話をさせてもらう

  •  独立系のイタリアンに行って、店長の話を聞く

コンサルって、そんなことまでするのか!と驚かれたかもしれません。
それでは本件にあてはめると、田口くんにはどんなことができるでしょうか。

  •  自分でカードローンを借りてみる

  •  「月刊 消費者信用」を読み漁る

  •  カードローンを借りてそうな友人を探し、話を聞いてみる

  •  ドラマ「不適切にもほどがある」を見る

  •  提携する保証会社のマーケティング担当者に話を聞く

  •  カードローンを借りている人が多そうなバーやキャバクラに行ってみる(不適切でしたらお許しください)

といったところでしょうか。

次に銀行ならではの、顧客深掘り方法をご紹介します。それは、「カードローンを借りているお客さま」の特徴分析を、マーケティングチームに依頼するという方法です。例えば、カードローンをよく借りてくれるお客さまの特徴として、次のようなことがわかります。

  •  普通預金の入金回数が多い

  •  コンビニでカード払いをよく利用する

  •  ガソリンスタンドでカード払いをよく利用する

こうした情報をできるだけインプットしたうえで、カスタマージャーニーを描くと、よいものが出来上がります。


田口:「いやー、お客さまを深掘りしてみると、いろんなことが見えてきました。」
尼田:「それはよかった。一歩成長したね!」
田口:「肝心のキャンペーンの中身なんですが・・・、『30日分の利息キャッシュバック』ってのはどうかと考えています。」
尼田:「なるほど、ローン会社などでは、同じようなキャンペーン見たことあるね。」
田口:「はい。ペルソナを考えると、こういう打ち出しの方が響くのかなって考えました。ところで、尼田さんは、カードローン借りるならどんなポイントが心に響きますか。」
尼田:「そりゃ、決まってるやん・・・。母ちゃんにバレないこと。」

手順④ 景品表示規約をチェックする

尼田:「田口くん、景品を考えたら、次にすることは景品表示規約をチェックすることだよ。」
田口:「景品表示規約?」
尼田:「実はキャンペーンの景品は上限額が決まってるんだ。田口くん、最初は『ハワイ旅行』って考えていたよね?他社のキャンペーンで『ハワイ旅行』ってみたことある?」
田口:「そういえば、あまり見かけないですよね」
尼田:「実は、一般懸賞を実施するときに、景品の金額には上限が法律で定められていて、10万円が上限なんだ。ハワイ旅行は無理だね。」
田口:「えー!知りませんでした」
尼田:「法令違反になってしまうから、知らなかったじゃ許されないよ。他にも、細かな条件がいろいろと決められているので、全国銀行公正取引協議会が定めている景品規約をしっかりチェックする必要があるね。」
尼田:「ちなみに、今回の田口くんの企画は、利息のキャッシュバックだから『景品類にはあたらない』とされているよ。景品規約はすごく大事だから、また別の機会に詳しく説明するね。」

解説

景品のルールについては、全国銀行公正取引協議会のホームページに詳しく掲載されています。こちらのQ&A等を参考に、ルールの範囲内で景品を選定することをお忘れなく。

手順⑤ チラシ(またはWeb)のイメージを作成する

田口:「ありがとうございます!これで、いよいよ企画書が書けますね。」
尼田:「いや、企画書を書くのはまだ早いよ。キャンペーンの企画はね、お尻から考えることが大事なんだ。お尻というのは、実際にお客さまがこのキャンペーンをどこでどんな風に知って、どう感じるかってこと。だから、PowerPointでチラシのイメージを作ってみることをお勧めするよ。」
田口:「なるほど、そうすると、それを見たお客さんに本当に響くかどうかイメージしやすくなりますもんね。ちょっとやってみます!」
尼田:「ちなみに、そのPowerPointができた段階で、上司に相談してごらん。企画書を出してからNG出されるとつらいけど、今の段階なら修正できるもんね。」
田口:「はい、ありがとうございます!!」


解説

「キャンペーンを企画すること」は、ちょっとカッコよく言い換えると「お客さまにバリュー(価値)を提供し、行動変容をデザインすること」と言えます。
つまり、机上でいろいろと考えても、肝心のお客さまにインパクトをもってお届けできないと何も効果を生みません。
プロモーションは、「クリエイティブ(どんな広告を)」と「媒体(どこに出すか)」の双方をしっかり検討する必要がありますが、企画書を作ってデザイン会社に丸投げするのではなく、担当者が自らどのような訴求ポイントをどのようにお客さまに届けたいのかをしっかり考えておくようにしましょう。

まとめ

いかがでしたか?キャンペーンを企画するときは、企画書を作成する前に取り組むべきことがあることを忘れてはいけません。
手順① キャンペーンの目的を押さえる
手順② キャンペーンのターゲットを明確にする
手順③ ターゲットを深掘りする
手順④ 景品表示規約をチェックする
手順⑤ チラシ(またはWebサイト)のイメージを作成する

以上の手順を経て、上司や周りの仲間を巻き込みながら、企画を進めていきましょう。企画書作成のコツや書き方については、別の機会にお話しさせてください。
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!


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