SF小説からテクノロジーを考えるメモ1

現実を精彩に描くとSFになってしまう、と言われて久しい現代社会とテクノロジーですが、それでもSF小説に描かれる世界は私たちの現実社会やテクノロジーへ何らかの啓示を与えてくれます。

物語として楽しみつつもそこから何が考えられるか、ということを意識しながらなるべく読みたいな。ということで国内SFで色々とメモしてみる。


テクノロジーとの共存(共存した結果、究極的には人間がどのような存在になるかが描かれる)


野崎まど『know』...情報が増えすぎた時代「超情報化時代」に対して「電子葉」と呼ばれる人造の脳を埋め込むことで、情報の統制を外注することによって時代に適応した人類。

「情報材」と呼ばれる建材が登場する。「情報材」はセンシングデバイスの技術が存分に詰め込まれた建材であり、今で言う「ビーコン」のような安価のセンシングデバイスが発展したものの極地であると考えられる。この世界では情報格差が生まれており、貧民層は自分の情報の公開のレベルを上げることで最低限の生活費(ベーシック・イン・カム)を得ている(自分達の生活の様子をアップすることで何らかの収益を生むということは、現代で言えばTV番組『テラスハウス』のようなリアリティショー、ニコニコ生放送に近いものだと思われる)。つまり富があればあるほど情報の非公開のレベルを上げることができる、逆に貧しい人たちは自らの個人情報を公開することで生存しなければならない。それにより、より格差は強まる。

舞台は京都。だが、その姿は現代とほとんど変わらない。建材はすべて「情報材」であることから町中はあらゆる時間においてウォッチングされており、それを利用して医療データや犯罪抑止などのビッグデータとして活用されている。
キーワード:
・トリリオン・センサー・ユニバース(2023年の実現が目指されているあらゆるものがセンサで覆われ、コンピュータにつながり、そしてそれは膨大なデータを生み出し、医療/流通・物流/農業/社会インフラなどに留まらず広い範囲にビッグデータの適用が広がり、私たちの生活を一変させるという構想→http://iot-jp.com/iotsummary/iotbusiness/%E3%83%88%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%BC%EF%BC%88trillion-sensors%EF%BC%89/.html
・インプランタブルデバイスと呼ばれる人体に埋め込むタイプの機器、webが当たり前(空気のようになった)の時代において、さらにそれを操作する機器もより直感的・身体的なデバイスになっていく→https://vrinside.jp/news/augmented-reality-contact-lenses-since-2008/

・カーム・テクノロジー→https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/calm-technology/


テクノロジーとの共存(テクノロジー肯定派と否定派の対立)


吉上亮『パンツァークラウンフェイセズ』…西暦2045年、舞台は大災害によって崩壊した後の東京を利用した特区・商業実験都市「イーヘブン」。この特区ではあらゆる技術が実験的に導入されている。

特徴的なのは今でいうAR(拡張現実)技術やインプランタブルデバイスが発展した技術である「層現」とよばれる技術。この技術を介して得られたビッグデータを利用して人びとの行動履歴を解析し,都市を管理する人工知能<co-HAL>がこの都市で生まれた人全てに道しるべを与えている(行き先,住む場所,働き先,交際,結婚相手…etc)。「層現」が行き先を常にナビゲートするので、都市の動線を整理する必要がなくなり、都市自体がショッピングモールのような「迷宮性」を孕んだものになっている。また、この都市では「職業」という概念は稀薄になり、働くということは「役割」の1つとして捉えられている。
キーワード:
・Amazonのオススメ機能などのフィルタリング機能(参考図書:イーライ・パリサー『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』
・インプランタブルデバイス
・人工知能
・ショッピングモーライゼーション(参考図書:速水健朗『都市と消費とディズニーの夢 ショッピングモーライゼーションの時代』
・物質としての金銭でのやりとりは無くなっている(ICカードなどの電子通貨)→ビットコイン?
・民間軍事企業


テクノロジーが浸透した世界(現実にある技術をなぞっていった結果どのようなことができるか楽天的に描かれている。近未来。)


野尻抱介『南極点のピアピア動画』…「ニコニコ動画」や「初音ミク」、「デジタルファブリケーション」などを題材にした連作短編集。

表題作「南極点のピアピア動画」は南極点からロケットを飛ばし有人宇宙飛行をするというプロジェクトが頓挫してしまい、途方に暮れていた大学院生が一念発起してロケットを自作してしまうというプロジェクトを立ち上げる物語。プロジェクトの基盤は「ピアピア技術部」という有志のネット上のコミュニティで、資金はクラウド・ファンディングによって集められる(現実のニコニコ技術部を模している)。メンバーはプロではなく大学院生などのアマチュア。デジタルファブリケーション、オープンソースなどを活用した、3Dプリンタが3Dプリンタを生み出すことで無限に拡大していく「ピアピア工場」で宇宙船をもDIYしてしまう話。登場人物たちは普通の人びとで近未来的な物語となっている。
キーワード:
・オープンソース
・ニコニコ動画
・初音ミク
・軌道エレベータ
・ソーシャル・メディア衛星開発プロジェクト(現実にもニコニコ動画内で人工衛星をつくるというプロジェクトがある→http://wiki.nicotech.jp/nico_tech/index.php?%E3%82%BD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%83%A1%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A2%E8%A1%9B%E6%98%9F%E9%96%8B%E7%99%BA%E3%83%97%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%82%AF%E3%83%88%20SOMESAT)

・バイオ蜘蛛の糸→http://jp.techcrunch.com/2017/11/10/2017-11-09-bolt-threads-is-raising-106-million-from-foundation-capital-and-formation-8/


テクノロジーが当たり前になった世界(「DX-9」というロボットが浸透した世界を描く。紛争地や日本などさまざまな場所が舞台となる。表題作「ヨハネスブルグの天使たち」「北東京の子どもたち」など)


宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』…連作短編集。ヒューマノイド「DX-9」。日本製のホビーロボット。
キーワード:
・ヒューマノイド


テクノロジーの行く末(今ある技術が究極的に進化した先にどういうことが起こるかというのが描かれている)


倉田タカシ『母になる、石の礫で』…3Dプリンタ。細胞レベルでのプリントが可能になった3Dプリンタがある世界。その3Dプリンタを体内に埋め込んだ新人類が主人公。各々が自分が動作しやすい身体の形態としている(腕が4本、脚が4本、目が4など)。サイボーグ的なポスト・ヒューマンとしての進化。
キーワード:
■3Dプリンタ


テクノロジーとの共存(人間型ロボットや人工知能が浸透した世界で、人間とは何かを問いながら進んでいく物語。)


長谷敏司『あなたのための物語』…AIによる物語創作。
『BEATLESS』…2045年に到来すると言われている「シンギュラリティ(技術特異点)」を迎えてから数十年ほど経過した社会。「シンギュラリティ」によって人工知能が人間の知能を超え、その人工知能によってつくられた、人類の理解を超越した「人類未到産物」のアンドロイドによって、あらゆることが自動化された社会。人間の役割もそれに伴い変化している。「アナログハック」
キーワード:
・シンギュラリティ(技術的特異点)
・アンドロイド


テクノロジーの究極形


円城塔『Self-ReferenceENGINE』…シンギュラリティにシンギュラリティが重ね合わされたような存在「超超超超超超越知性体」というキャラクターが登場する。

「究極的な演算はそよ風になる」と言うようにコンピュータの演算が究極的には宇宙に存在する全自然現象を再現できるようになる(時空でさえ操れるようになる)といった旨の記述がある。
キーワード:
・量子力学

この記事が参加している募集

サポートして頂いたものは書籍購入などにあて,学びをアウトプットしていきたいと思います!