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#游々文芸録

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揺蕩う感性で綴った小説など(フィクション)まとめ
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#短編小説

小説「VS蚊」

先ほどまで空中張り手をしていた者である。私の空中張り手は闇夜を裂き、遂に「奴」に命中することはなかった。

蚊である。

人畜有害の極みともいえる真夏の夜の悪夢を部屋に招き入れてしまったことに関しては、私の忸怩たる過失と言ってもよい。しかし、蚊の一匹や二匹によって

明日の為にと早めに瞼を閉じた、この有意義な休眠を阻害され、午前4時に起きて気晴らしに文章でも打たなければならないとは、こ

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短編小説「間違いたい人」

「アニメなんてくだらん。お前は普通に進学するべきだ。えぇ、いや、せねばならない。」

――――まるで担任が世界を代表して僕を批難しているようだった。

客観的に見ればこの表現は大袈裟に見えるかもしれない。

しかし、当事者の僕にとっては、なんて等身大の表現だろう!と寧ろ自身の表現に感嘆の念さえ抱いていた。

その結果に付随して、僕は、僕自身が、世界というものに拒否されている感覚を鮮明に覚えたのだっ

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短編小説「リア充爆発しろ」

「リア充爆発しろ」
本気でそう思っていた時期があった。
願い事をする機会さえあれば、「どこの誰でもいい、過去でも未来でもいい……。リア充1組でも爆発してくれ……。」
そう思っていた。

「爆発しないかな〜」

道端の中睦まじいカップルを見つめ、そう呟いた日から2年が経った。

今僕には彼女がいる。毎日が楽しい。

しかも今日は初デートだ。待ち合わせは10時。遅刻しちゃいけないよな。よし、待ち合わせ

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懐炉(KAIRO)

懐炉の熱がジョグの振動で極地に達しようとしていた。もう師走だというのに、私の首筋には汗が伝わっていて、呼吸の荒さは隠そうと思っていても顕著である。

何を隠そう、私は今。コンビニでマイペースに立ち読みをしていたら、学校に遅刻しそうになっているのである。

風邪気味な私の身体を案じていた昨日とは一転、私は今日、私を学舎に向かわせる選択をした。

走ると一時的に体温は上昇するが、また暫らくすれば体温は

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