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介護福祉タクシーに未来はあるか(1) ~社会的需要と採算性の狭間で~

はじめに

 車いすに座ったまま乗り降りができて、ドライバーの多くは訪問介護ヘルパーの資格を持っているため、乗り降りの介助もしてくれて、高齢者も障碍者も移動が楽ちん。それが「介護福祉タクシー」です。
 高齢化社会や障碍者に優しい社会を目指す「交通バリアフリー法」施行(2000年)、タクシー許認可の規制緩和などの流れや、社会的需要などにより、新たなタクシー業態として、2000年代前半から徐々に事業者が増えてきました。
 弊社・福興舎が運営する「ふっこう福祉タクシー」も、こうした介護福祉タクシーの一つです。しかし、こうした社会的需要を充足するだけでなく、事業として取り組むからには、採算性を確保することが最も大事なことですが、いま、たいへん厳しい事業環境に置かれていることも事実です。

高齢化社会は進むが、介護福祉タクシーは減り始めている(仙台地区)

 ビジネスの名刺交換の場などで「介護福祉タクシーを運営している」と自己紹介しますと、決まって言われることがあります。
 「これからの社会には絶対必要な仕事ですね。頑張ってください」
 高齢化社会が進行し、自家用車や既存の公共交通機関で移動ができない高齢者は、確かに増えているでしょうし、乗降車のケアが充実し、車いすのままでも乗車できる介護福祉タクシーの存在は、ますます重要なものと認識されつつあるのは事実です。

 いま、福興舎が営業している仙台地区で、どの程度の介護福祉タクシーがいるのか、具体的な数を挙げてみます(数値は福興舎の推計です)


〇仙台地区タクシー台数総数 約2,500台
〇うち介護福祉タクシー台数 約150台(実際に稼働できるのは100台もないとみられる)
〇介護福祉タクシー事業者総数 約80事業者
〇令和元年末までに廃業したとみられる事業者 少なくとも25事業者以上

 この数値だけでは分かりづらいのですが、肝心の介護福祉タクシーは、事業者数・台数ともに頭打ち。むしろ減り始めているのが現状です。

「必要とされているのに、増えない、続かない」現実

 福興舎が地元の東北運輸局に新規開業申請手続きを行った際、担当官から「条件が整っていれば、事業許可は出します。しかし、すぐに廃業されては非常に困ります。なんとか頑張ってください」と、懇願されるように言われました。
 平成30年度まで、東北運輸局に新規開業申請を行う仙台地区の事業者は、月1件くらいのペースで見ることができましたが、令和元年度に入り、とうとう申請者が「ゼロ」になりました。つまり、これ以上事業者は増えていないということです。運輸局担当官の声からも「せっかく制度を整えているのに、事業者が定着せず、交通行政上、非常にまずい」という困惑が感じ取れます。
 原因の一つとしては、一人一台規模の中小事業者が多く、効率性・採算性の悪さが挙げられ、そうした事業者の廃業が近年相次いでいます。しかし最近では、老舗の大手法人タクシー事業者が、社内の「訪問介護部門」として手掛けてきた介護福祉タクシーが、撤退する事例すらも相次いでいます。
 介護福祉タクシーは「必要とされているのに、増えない、続かない」、大いなる矛盾を抱えているのです。

 次回以降、「増えない、続かない」原因として、採算性を中心とした介護福祉タクシーの事業環境について、説明を試みていきます。

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