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家でできる趣味がほしい〜スコーン編〜(相馬 光)


「家でできる趣味が欲しい」と言い始めてから1年が経った。

ペン字イマジナリーねこスペースカポカ秘密結社飲み会ペーパークラフト刺繍と色々とやってみた。

しかし結局どれも1年続く趣味にはならなかった。

せっかくの復刊号、何か新たな趣味を探さねばとあれこれ見て回っていたところ、昨年からご寄稿いただいているkiris_kirimura氏が、何やらすんごい話題になっていた。

15万。途方もない数字すぎて想像がつかない。

「所詮は粉とかを焼くだけですよ」の言葉のかっこよさよ。
しかもクックパッドからインタビューまで受けている。

さりげなく最後のプロフィール欄に『吹けよ春風』で阿鼻叫喚を生んだとんでもない記事のリンクが貼ってあって笑ってしまった(ぜひともサイトからご確認ください)。

なるほど、「所詮は粉とかを焼くだけ」なのか。
どんなに不器用で雑な人間でもレシピに書かれている工程さえ守れば上手くいくはずだ。
しかし、私は過去に説明書に書かれた工程通りにやったはずが盛大に失敗したことがある。

あまりの大惨事にLINEニュースにもなった。

「こんなLINEニュースデビューは嫌だ」のお手本のような載り方だ。

だけど、kiris_kirimura氏のインタビューを読んでいるうちにどんどん作りたい欲がわいてきた。
そういえば人生でお菓子作りをしたことがない。
ロクにお菓子を作ったことがない上に雑で不器用な人間でも美味しくできるだろうか。

という訳でやってみた。
レシピはこちらだ。

なるべく外に出たくないので、家にあるものでどうにかしたいと思いあれこれ探してみたところ、レシピに書かれている「グラニュー糖」と「ベイキングパウダー」がなかった。
なぜだか「でもまぁ、どうにかなるっしょ」と思って代用できるものを探した。

きび砂糖があったのでグラニュー糖の代わりにがんばってもらうことにした。

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ベイキングパウダーの代わりにホットケーキミックスにがんばってもらうことにした。
もうすでに雑なのだが、はたして口に入れても大丈夫なものができるのだろうか。

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なんだか剥き身のホットケーキミックスだけだと所持しちゃいけない粉(ナイフで刺してペロッとする感じ)に見えちゃうので、一応パッケージも一緒に撮ったものを載せておく。

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両手が粉だらけになるかもしれないと思い、レシピとインタビューを印刷しておく。

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机が粉まみれになるだろうから新聞紙を敷く。
クジラがいっぱい描いてあったのでしばらく読んでしまった。

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ニタリクジラなんてのもいるんだね。
今後のクジラ肉の主役だって。やるじゃん。

……ハッ、スコーンだ。

「1、バターを小さなサイコロ型に切っておきます。」

とのことなので、きっちり計量してバターを切る。

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※この後チンチロ博打で使えそうな小さなサイコロサイズに切りました。

「2、ボールに薄力粉、ベーキングパウダー、塩を入れて混ぜ、そこにバターを加えて手でこすり合わせる様にして粉と合わせていきます。」

ここでさっそく計量ミスをする。

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ボウルの重さを抜き忘れたのだ。
あわあわしながら携帯で計算し必要な量を入れた。
もう危ういぞ、私よ。

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そして一気にえいやと混ぜ込んだ。お菓子作りっぽい感じがしてきた。

「3、2に砂糖加えて混ぜ、次に牛乳を加えて生地が一つになるようにまとめます。*この時、生地をこねないで!柔らかくて大丈夫」

という訳で代打のきび砂糖と牛乳を入れる。

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使い終わったバターを冷蔵庫にしまい忘れたことに気づいたけど、show must go onなので、とりあえず放っておく。

「生地が一つになるようにまとめます。」

まとめるってなんだろう、とりあえずほどよく混ざってひとつになっていればいいのだろうか。
だけどこの手についた物体が中々のくせもので、こいつが手にまとわりついて離れないんだ。

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片手でどうにかできないものかと思ってブンブン振っても取れないので、写真を撮る用に使わないでおいた左手を駆使したところ、余計に取れなくなった。
なんか、厄介が2倍になった。

両手がやわらかな物体にまみれてしまい写真も撮れない。
「離れろ!」「あっちいけ!」と小声でつぶやきながら振り払う。
液状の未確認生物が襲いかかってきたらこんな感じなんだろうな。

両手がこの状態だと打ち粉を撒くこともできない。
終わった。私のお菓子作りが終わった。

だけどここまでやって投げ出すのは悔しいので、手についた結構な量の物体たちを洗い流す。
びっくりするほど取れなくて、何度も洗った。
「洗っても洗っても落ちねえんだよ……」と敵対する組の構成員を初めて殺した鉄砲玉みたいな独り言をつぶやく。

やっとこさまな板に乗せた物体と対峙する。
こいつ、全然やわらかいけどいいのだろうか、と心配になったが、「*この時、生地をこねないで!柔らかくて大丈夫」と書かれている。
この後こいつに打ち粉をするのだが本当にいいのだろうか。
そういえば打ち粉について何か書いてあったなと思い、kiris_kirimura氏のツイートを見てみた。

「打ち粉ドバーして生地ダバーしてまだネバーしてたら追い打ち粉ドバー」……?


観念的すぎない?


このくだり、インタビューに詳しく書いてあったなぁと思い、印刷したものを見てみたら、

「kiris_kirimuraさん:材料を全部入れて、早々に混ぜるのをやめたら、だらしなく数回折りたたみ、型で抜いたら一切いじらず、天板に投げるぐらいの雑で大胆な感じで作っています。レシピの工程3には「※この時、生地をこねないで!柔らかくて大丈夫」と書いてあるんですけど、べちょっとしているのが気になるので、私はあらかじめ打ち粉を大量にひくようにしています。具体的にはカレー用スプーン大さじ山盛り4~5杯ぐらいです。型を抜くときも柔らかいなと感じるので、さらに生地の上からおそらく山盛り2~3杯ほど足してから折りたたんでいます。これが私がツイートに書いた「打ち粉ドバーして生地ダバーしてまだネバーしてたら追い打ち粉ドバー」の内訳です。」

めっちゃ丁寧に書いてあった。

よかった。この言葉を私の北極星にして美味しいスコーンにたどり着くんだ。
文字通り「打ち粉ドバーして生地ダバーしてまだネバーしてたら追い打ち粉ドバー」してみたら形ができてきた。

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これで本当にできるのかまだ信じられないが、一気に前に進んだ気がする。

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なんか、正月のお餅を思い出す。
心の中のクールポコが「男は黙って!」と叫んでいる。

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なんだかガヴァドンにも似ているなと思いながら切っていく。

※クッキングひとくちワンポイントアドバイス
「ガヴァドン」はウルトラマンに出てくる怪獣だよ。
ムシバというなんかかわいそうなあだ名の子供が、土管に描いた落書きが怪獣になるのだけど、ただただ寝ているだけで何もしない上に夕方になると絵に戻るという、生まれ変わったらぜひともなりたい怪獣だよ。
ちなみにガヴァドンにはAとBがいるけど、写真はAに似ているよ。

ちなみに型はないので、なんとなく包丁でスパスパと切る。

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「少量の牛乳をハケでぬって予熱済みのオーブンで12〜15分焼きます。スコーンが膨らんでこんがり色がついたらできあがり♡」

ハケ!?
ハケなんて家にあったっけ?でももう探すのも面倒だ。

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♡マークまで付けてくれて申し訳ないけど、なんか近くにあったヘラで代用した。
牛乳をちょいがけして塗っていく。

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そしていよいよ温めておいたオーブンで焼く。
はたして物体はスコーンになるのか……?
ガヴァドンはAからBになるのか……?

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あ!なんか膨らんできてる!

〜15 minutes later〜

できあがったのが、こちら。

どん!

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スコーンに!!!!!なってるー!!!!!!
もうちょい膨らんでもいいんだよ、と思ったが、この子なりにがんばった感じがするのでそれはもう気にしない。
香ばしくて甘い匂いが食欲をそそる。

スコーンのために買ったアオハタのジャムとお気に入りのスプーンを出す。

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君は誰なんだい?

さっそくできたてを食べてみた。

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おいしいーーーーーーーーーーーーー!!!!
外はカリカリで中はふわっふわだ。
何もつけなくて甘味があるし、スコーンの香ばしい匂いが鼻を抜けていく。
本当に私が生み出したものなのだろうか。

これはいくらでも食べられる!!!と思いながらバクバクと4つほど食べたらすんごいお腹いっぱいになった。
すごいぞこのレシピ!!!

これはまたぜひとも作りたい。
1年かけてようやく「これは趣味にしたい!」と思えるものに出会えた気がする。
このスコーンの記事を紹介してくれたkiris_kirimura氏に感謝します。

みんなも家にあるものだけで今すぐレッツトライ!



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さあさ、お立ち合い……

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丁か半か……

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君は誰なんだい?


相馬 光
文芸やってます。
脚本『Re:名も無き世界のエンドロール 〜Half a year later〜』『新米姉妹のふたりごはん』。第29回フジテレビヤングシナリオ大賞佳作『サヨナラニッポン!』。書き出し小説&文芸ヌー(インターネットウミウシ)。


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