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【ショートショート】テッシュと暇人

 暇だ。
 テレビもスマホも質に入れてしまった。
 ちゃぶ台の上にあるのはテッシュの箱だけ。
 オレはテッシュを一枚取り出して、右上隅をくるくるくるくると巻いた。
 こよりを作り、鼻の穴でもくすぐって遊ぼうかと思ったのだ。
 ところが、テッシュはこよりにならず、なにやら妙なものが出現した。
「われを呼びしはそなたか」
 細長い身体に白い装束を着て、その上に丸顔が乗っている。まるでマッチ棒のようだ。
「べつに呼んではいないけど、あなたはどなた」
「われは暇つぶしの神なり」
「オレはよこりを作っていただけなんですけど」
「こよりとな。それはどうやって作る」
「ティッシュをくるくるくると巻いて作ります」
「そなた、数を間違えておる」
「えっ」
「くるくるくるがこより。くるくるくるくると巻くと、われが出現するなり」
 ふつうなら驚く場面かもしれないが、暇なせいで感性も鈍っている。
「さっき暇つぶしの神様とおっしゃいましたね。こりゃいいや。オレは暇で暇で仕方がないんです。なにかみせてください」
「われは芸能の神ではないのでのう。それより、そち、人に喜ばれ、美味しいものがいただけ、時間も潰せるところへいかぬか」
「そんないい場所がこの大晦日にあるので?」
「あるある。暇つぶしのことならわれにお任せあれ」
 とんでもなかった。寒い中、連れていかれたのは献血ルームだ。たしかに他人に感謝され、お菓子や飲み物もあり、マンガも読み放題。暇つぶしにはなったが、違うんだよなあ。これは遊びじゃない。
 暇つぶしの神様は気が済んだのか、煙のように消えてしまった。
 オレは新たな遊びを発見した。今度はテッシュの二枚巻き、三枚巻き、くるくるくるくる巻きやくるくるくるくる巻きも試してみよう。なにが出現するか乞うご期待である。

(了)

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