【ショートショート】行き止まり
会議室にはさまざまな職種の人間が集められていた。
議題は、新製品の広告について。
「ご存じのとおり」
と司会者が喋りだした。
「この広告嫌いの世の中で、新製品を認知してもらうことは非常に困難であります。今日はそのためのアイデアを広く募りたいと思います」
「広告代理店の人がいないようだけど」
新製品の企画者が聞いた。
「先月、日本で最後の広告代理店が倒産しました」
たしかにもうテレビもなければ新聞もない。街頭からは看板やディスプレイが撤去された。
残ったのは混沌としたネットの海だけで、そこには広告ガードがある。画面上の広告を一瞬にして消してしまうアプリだ。
「クチコミは……」
と営業部長が呟き、出席者たちから失笑を浴びた。
いまやインフルエンサーと見なされることは社会的な死を意味する。
感想を書いただけでインフルエンサーと見なされ、抹殺される被害者は後を絶たない。
「じゃあ、みんなどうやって新製品と出会っているんだ」
と営業部長が聞く。
「出会ってますか、新製品と」
と調査部の代表がたずねた。
企画者はうなだれた。
「このプロジェクト自体が間違いでした」
「いまさら、そんな……」
司会者が目を丸くすると、
「明日からは旧製品を開発します」
と彼女は言った。
「えっ?」
「かつてあったけど、いまはなくなってしまった製品。洗濯板とか火鉢とかワープロとか」
「よろしいのでは。それなら広告ではなくて、解説ですからな」
調査部の代表は満足げにうなずいた。
(了)
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