【ショートショート】名画座
繁華街を歩いていて、ふと目を上げると、名画座の看板があった。壁面はポスターだらけだ。
「ローマの休日」
「ハスラー」
「エレファント・マン」
「リトル・ロマンス」
懐かしいなあ。
休日だし、ひさしぶに入ってみようか。
チケットはもぎりである。機械式でないところがうれしい。1500円を支払ってロビーに入った。
コーラとポップコーンを買い、後方の席に陣取る。
ひさしぶりにスクリーンで映画をみるわくわく感。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」をシリーズで見た。
さすがに疲れる。
いま、何時だろう。スマホの画面を開いた。あれ。電源オフになっている。
お腹が空いてきたので、ロビーでハンバーガーとコーヒーを買ってきた。
「ニュー・シネマ・パラダイス」を観ている途中で眠ってしまったらしい。気がついたら、「雨に唄えば」が始まるところだった。
もう外に出ても終電を過ぎているだろう。ひさしぶりで夜を映画館で過ごすのも悪くない。
と言いつつ、もはや何日たったことか。
何回か席を立とうとしたのだが、そのたびに、私の偏愛している映画が始まって、腰をおろしてしまう。
気がつくと、いつの間にかあたりは満席になっている。
私は席を立った。
「わあ、すごい。名画座だって」
「ちょっと観ていこうか」
手をつないで入っていくカップルとすれ違った。
建物は私が入ったときより、大きくなっていた。
家に帰って確認すると、半年が過ぎていた。
(了)
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