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旅する日本語 第6語 「涼飈の原宿」

原宿には異空間への入口がある。

騒がしい人混みから一歩入ると、そこにはまるで避暑地の高原にでも足を踏み入れたような涼と静寂があった。

緑に囲まれた参道、頭上に突き抜ける青空、そして、少し張り詰めたような厳かな空気。

明治神宮。

誰もが知っていて、でもあまりにも日本人がいない場所。

境内を歩いているのは海外からきた観光客ばかり。まるで自分たちの方が、海外にきたのかと錯覚するくらい日本人がいない空間だった。

歩きながら妻が言う。

「多分日本人はさ、YouTubeとかで満足しちゃって、もうわざわざ出歩かないんだろうね。家にいながら何でも見れるもんね」

確かに、街中で目につくのは外国人ばかり。明治神宮にくる前、僕のリクエストでお昼に一蘭のとんこつラーメンを食べてきたが、そこにも外国人が並んでいた。

そして我々夫婦も、例にもれず家にいる時は各自YouTubeで好きな動画を見て過ごしている。疲れているとあまり活字も読めないし、かと言ってテレビをつけてもおもしろい番組もない。結果、YouTubeをずっと見ているだけで終わる休日もある。(ちなみに僕は笑点やサンドウィッチマンのコント、妻は乃木坂の動画がお気に入りだ)

僕が行きたい店があって原宿まで出てきて、僕のリクエストでお昼はラーメン。でもそれで目的は達成されてしまい、もう原宿に用はなかった。

僕1人で来ていたら、恐らく用事を済ませたら秋葉原にでも流れていただろう。せっかく原宿にきたんだから、と思いつつ、どうしようか、と思案。すると妻はスマホで何やら調べて、こう提案してきた。

「じゃあ、明治神宮に行ってみるのはどう?」

「いいね」

僕は即答した。

東京に住んでいると、案外東京の名所に行ったことがなかったりする。スカイツリーもまだ登ったことはないし(登ろうと待機列に並んでいる途中、妻が体調悪化して断念)、皇居の桜を見にいったこともない(あと一歩のところで閉門してしまい断念)。上野動物園でパンダを見たこともないし(行くきっかけもなく)、両国国技館で相撲を見たこともない(こないだ、電車で両国を通過した程度)。

そうしたいわゆる観光スポットでも、そうでなくとも、行ったことのない場所に行くーーそう決めるとその行程は急に「旅」になる。

そんな当たり前のことを、妻と涼飈の原宿が教えてくれた。

ちなみに明治神宮には、夫婦楠(めおとくす)という二本のご神木があり、夫婦のパワースポットだそうだ。夫婦でのお出かけに是非。


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