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【お昼ご飯はテイクアウトで】

 ねぇ、お腹減ったよね。
ボソリ、とつぶやくと、私の目の前で、あの人は無表情のまま、私のことを見つめる。紫水晶のように、輝く対を成す二つの瞳。不思議そうに眺めるミミマキムクネをよそに、ムシチョウは呟いた。

「…財布忘れた。」


「いや、ごめんね。財布忘れて。」

 反省の色も見せずに、目の前のムシチョウは呟く。かなりの長身。それと対を成すかのように、小さな、可愛らしいミミマキムクネは首を横に振って、控えめに微笑んだ。揺れる黄緑色の髪はゆるくカールしていて、清楚なイメージを持つ。それに、特徴的な赤と深緑の反対色のオッドアイも、神秘的な感覚で素敵だ。

「いいえ、同じクラスメイトですし。」

 ニコッ、と笑って前を向くと、ムシチョウは廊下を飛ぶ様に進んでいっていた。その様子は、なにやらはしゃいでる様な気がするような…。
 はた、と、もものは首をかしげた。そう言えば…私はこの人に話しかけられたことはあったか…?席も離れていて、グループも組んだ事がない。…なら何故私とランチ?脳内にもんもんといろんな思いが現れては、シャボン玉のように消えていく。クルクル、と自分の真紅のネクタイをいじりながら、もものは精一杯考える。しかし、ムシチョウは待たずにスタスタと、食堂へ歩いていってしまう。距離を離されたことに気がついて、慌てて駆け寄る。


「…じゃあ、フサムシ。二個。」

 食堂に着いたら着いたで、迷う間もなく注文を決めてしまっている。なんだか不思議な人…でもいやな感じはしない。そう思いながら、もものも口を開く。

「私は…Aラン「あ、この子はAランチ、テイクアウトで。」

 …え?一瞬訳が分からなくなった。しばらくして、自分の注文を決められたことに気がついた。もものは、恐る恐る上目遣いで目の前のムシチョウ、プリケリマを見つめる。

「あ、あの…私Aランチ…」

 ここで食べたいんですけど、という言葉は途中で切れた。ポンッと、頭に手が置かれて、これ以上の発言は許さない、とでもいうように絶対零度の視線を受けた。…こ、怖い。
 そうこうしてるうちに、紙袋に包まれた二つの袋が出てくる。一つからはフサムシ特有の、ミントのような清涼感溢れる香りがして、もう一つは甘い、Aランチのカフェラテのにおいがする。無言で紙袋を渡すと、プリケリマは、もものの手を無造作にとった。

「…え?」

 抗議の声を上げる間もなく、ずるずると引きずられるようにしてもものとプリケリマは食堂を退出した。ddは食堂のバイト君に渡されてあったらしいが、なんとなく複雑な…

「はい。到着。」

 その声に、後ろ向きで引きずられていたもものは恐る恐る前を向く。…?アメンボ公園?ピグミー柄の雲がふわふわと緊張感なく漂っている。無造作に腰を下ろすと、プリケリマは一匹のフサムシを頬張る。唖然とするもものをよそに。プリケリマは笑った。


「…で?ハジメマシテ、仲良くしようね。もものちゃん。」

 …そうだ。この人とは初対面だ。いまさらになって気がついた事実。なぜかおかしくなり、もものはプリケリマの隣に座って笑いながらAランチを食べ始める。そう。初対面。


 昼食後、プリケリマに何故ここにつれてきたか聞いてみると、意味深な笑みを浮かべて「さぁ?」と答えられただけだったのも後日のお話…。


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月菜様へ

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