長期構想の重要性(2)
前回のコラムでは、私もアテンドとして参加した経営者の合宿セミナーにて感じたことを取り上げました。経営計画においての長期構想の重要性でした。
https://note.com/fujimotomasao/n/n20105ad65bb3
11月30日の日経新聞で「エネ企業、脱炭素の条件 水素社会担う決意を」という記事が掲載されました。以下は、一部抜粋です。
~~東京ガスは19年11月に発表した長期経営ビジョン「コンパス2030」で、「50年ごろに温暖化ガスの排出を実質ゼロにする」と宣言した。日本のエネルギー大手で脱炭素を表明したのは東京ガスが初めてだ。
「天然ガスの否定につながらないか」。経営会議では疑問の声が出た。業界には「できるはずがない」との見方も強かった。
だが、内田高史社長は「脱炭素という社会の変化に応える決意を示さない限り成長は見込めない。10年先にできることでなく、30年先からさかのぼって今、何をすべきかを考える必要がある」と言う。背中を押したのはビジョンづくりに加わった若手社員らの「脱炭素を目指す会社でありたい」との声だった。
足掛かりは水素だ。水素とCO2を反応させて都市ガスの主成分であるメタンをつくる技術開発に取り組む。~~
欧州を中心に脱炭素社会に向けた企業の取り組みが叫ばれる中、日本政府も2050年までに温暖化ガスの排出実質ゼロを目指すと表明しました。同社の「コンパス2030」は1年前に発表されたものです。発表に至るには、さらにその前から準備をしておくことが必要です。内情は存じ上げませんが、同社は外部環境変化の認識を業界他社よりも先取りし、長期構想の上、経営ビジョンとして取り込んだと想像されます。
「マーケティング」と「イノベーション」という言葉があります。ドラッカーの説明(書籍「マネジメント」)によると、マーケティングは「顧客の欲求からスタートする」こと、イノベーションは「新しい満足を生み出す」こと、とされています。言葉を変えると、マーケティングとは顧客の欲求を理解した上での商品提供であり、イノベーションとは新たな経済的価値を生み出す社会変革です。同社の例は、イノベーションの例だと言えそうです。
「マネジメント」には、さらに次のような説明があります。「イノベーションには、既存事業のための尺度、予算、支出とは別のものが必要になる。優れたアイデアというものは常に非現実的である。イノベーションの探求は、既存事業の管理とは切り離して組織しなければならない。新しいものの創造と既存のものの面倒は、同時に行えない。」
このことからは、イノベーションを伴う長期構想は常に抵抗を受けるものであり、既存事業と新規事業を同じ組織や人が同時に担当するとうまくいかないことが伺えます。理想としては、新規事業の担当は既存事業への対応からは切り離した専任とするほうがよいということでしょう。
当然、評価の軸も既存事業とは異なるものにする必要があるでしょう。既存事業と同じ考え方での目標管理や評価のルールでは、イノベーションの芽を摘んでしまうようなものです。
特に中小企業では、人のリソースにも限りがあり、この視点での組織と人の切り分けができていないところが多いものです。冒頭で紹介した合宿においても、新規事業開発がなかなか進んでいないある企業様が、組織再編をしイノベーションのための活動を専任で行う組織をつくることを決定されました。
マーケティングの追求とイノベーションの探求、どちらも大切で、人によって向き不向きもあるでしょう。イノベーションが常に発生する組織となるよう、長期スパンの視点でビジョンを構想しそれを実現させるための組織マネジメントを行うという役割が、経営者・経営層には求められるのだと思います。
<まとめ>
イノベーションの探求は、既存の業務プロセスとは一線を画して行う。