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物価や賃金の今後

物価が以前よりは落ち着きつつあるという情報が出ています。今週発表された5月の米国消費者物価は前年同月比+4.0%で2年2カ月ぶりの低い伸び、5月の日本企業物価指数は前年同月比+5.1%でやはり上昇率が低下傾向という内容でした。物価、物価に伴う賃金はこの先どうなっていくのでしょうか。最近の日米の景気指標も一部取り上げながら、考察してみたいと思います。

米国です。左から順に、今年に入ってからの、卸売物価指数前年比、消費者物価指数前年比、平均時給前年比です。

1月:5.9%、6.4%、4.4%
2月:4.9%、6.0%、4.6%
3月:2.7%、5.0%、4.3%
4月:2.3%、4.9%、4.4%
5月:未発表、4.0%、4.3%

これを見ると、例えば傾向を3点指摘できます。

・米国では、企業が卸売物価(仕入れ値)を消費者物価(売り値)に価格転嫁できている
・賃金の上昇率が消費者物価の上昇率に競り負けていたが、両者が均衡しつつある(消費者の懐が楽になっている)
・すべての上昇幅が低下傾向にある

先日は、米国で値上げに限界が見えてきてセールを始める小売店舗が出てきたという話を取り上げました。価格転嫁が十分に進んだ結果、これ以上価格転嫁(というより利益を上乗せする値上げ)を進めると消費を冷ましかねないというわけです。上記の消費者物価の落ち着きの推移を見ると、改めてそうした動きが感じられます。

日本です。左から順に、国内企業物価指数前年比、消費者物価指数(生鮮除く総合)前年比、現金給与総額前年比です。

1月:9.5%、4.2%、0.8%
2月:8.3%、3.1%、0.8%
3月:7.2%、3.1%、1.3%
4月:5.8%、3.4%、1.0%
5月:5.1%、未発表、未発表

これを見ると、例えば傾向を3点指摘できます。

・日本では、企業が卸売物価を消費者物価に価格転嫁しきれていない
・賃金の上昇率が消費者物価の上昇率に負け続けている(消費者の懐が継続的に苦しくなっている)
・卸売物価の上昇率は低下傾向にあるが、消費者物価と賃金の上昇率はまだ落ち着いていない。

このことからは、企業には米国ほどの余裕はなく、よって売り値を引き続きしっかり上げる必要もあり、消費者物価の上昇率低下もまだ見込みにくいことが想定できます。しかしながら、給与が物価の上昇率以下のため、消費者にも余裕がありません。消費が冷え込んでしまう懸念があります。

6月13日の日経新聞記事「企業物価5月5.1%上昇 5%以上は24カ月連続 飲食料品、転嫁圧力なお」の内容からも、この見通しは言えるのではないかと考えられます。(一部抜粋)

日銀が12日発表した5月の企業物価指数は前年同月比で5.1%上昇した。5%以上で推移するのは24カ月連続で、遡れる1980年以降で過去最長だ。飲食料品など消費者に近い「川下」の価格転嫁圧力は根強い。サービス価格も上昇すれば消費者物価の押し上げが続く可能性がある。

全体では8割を超える品目で物価の上昇が続く。消費者に近い「川下」の品目では価格転嫁の長期化が顕著だ。飲食料品は7.9%上昇と4月(7.5%)から伸び幅が拡大。第一生命経済研究所の大柴千智氏は「飲食料品の上昇はまだ強く、消費者物価は根強い上昇が続く」とみる。

日銀の植田和男総裁は9日の国会で、「企業の価格設定行動に上振れ方向での変化がみえつつある」と述べた。4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は、飲食料品の押し上げもあり前年同月比3.4%上昇した。日銀関係者からも「食料品の値上げがかなり強い」との声が上がる。

また、「今年の賃上げが全体で3%台」のような話を聞きますが、上記の現金給与総額の増え方はその水準を大きく下回っています。これはなぜなのでしょうか。以下は、厚労省のサイトから引用した現金給与総額についての説明です。(一部抜粋)

「現金給与総額」とは、税や社会保険料等を差し引く前の金額であり、きまって支給する給与(定期給与。以下「定期給与」という。)と特別に支払われた給与(特別給与。以下「特別給与」という。)に分けられる。

定期給与とは、労働協約、就業規則等によってあらかじめ定められている支給条件、算定方法によって支給される給与を指し、所定内給与と所定の労働時間を超える労働に対して支給される給与や休日労働、深夜労働に対して支給される給与である所定外給与の合計額である。一般的に、所定内給与は労働者に支払われるベースとなる給与であることから短期間で大幅な増減がみられることはあまりないが、所定外給与は所定外労働時間の変動に従って増減することから、企業の経済活動の状況等を反映して増減する。

特別給与とは、一般的にボーナスと呼ばれる夏冬の賞与、期末手当等の一時金等や諸手当、あらかじめ就業規則等による定めのない突発的な理由等に基づき支払われた給与等の合計額を指し、企業の業績に従って大きく変動することから、経済の動向を反映して水準が変動する傾向にある。

「賃上げ3%台」などの情報は、おそらく企業の賃金制度上のルール改定における理論上の算出結果であり、実際に支払われた実績とは限りません。実際に支払われた現金給与総額が「賃上げ3%台」と乖離して低いのは、例えば以下の可能性が考えられます。(精査はしていませんが)

・所定外労働時間(残業)が減り、残業代が減った
・正社員→非正社員などの雇用形態の転換が進み、手取りの賃金としては変わらないか減る労働者がいる
・賃上げのうち、多くの割合が夏冬のボーナスなどによるもので、この影響は1-4月にはあまり現れない
(例えば、2022年12月の現金給与総額対前年比は+4.1%で、この高い上昇率はボーナス支給額が増えた影響が想定される)

上記に加えて、上記現金給与総額では考慮されていない税や社会保険料等の負担が毎年上がっています。その影響も加味すると、実践的には、「賃上げ3%台」などと言われているほどの手取り額増加はなく、所得増加分は物価上昇分に力負けしている流れが続いていると言えます。

以上(限られた要素ですが)から今後の動きを想定すると、例えば次のような可能性が想定されます。

・今週米国は利上げを見送った。米国の物価の落ち着きは、金利の継続的な据え置きあるいは引き下げにつながる。そうなれば、金利差拡大を背景に進んだ円安が円高に向かう可能性がある。

・日本の金利引き上げの是非は相当慎重に議論されているが、仮に政策変更となると、円高の流れは強まる。

・日本の物価高・賃上げともに、簡単におさまるのは難しい。

・ユーロ圏のGDPは1~3月に2四半期連続でマイナス成長となり、景気後退とみなされている。米国や日本も企業業績は既にピークアウトした可能性もある。そうなれば、期待感でほぼ上昇一辺倒できた最近の株式市場が、今後軌道修正となる可能性がある。

想定することがどこまで当たるのか、未来は誰にも正確には読めません。そのうえで、自社や自分に与える影響の種類と可能性の高さを想定し、法人としては借入、投資、値上げ、賃上げ、資金などの計画、個人としては投資や消費などの計画をすることが必要だと思います。

<まとめ>
米国などの国外から景気後退が広がるかもしれない。

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