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定性評価を考える(2)

前回の投稿では、ある企業の管理職の事例をもとにしながら、定性評価についてテーマにしました。定性評価は、誰が見ても結果が一目瞭然の定量評価と違って、評価者自身の心情や主観を混ぜ込まずにいかに事実ベースで評価できるかが大切になってくる、ということを考えました。

ある企業で採用されている執行役員制度があります。以下のようなイメージです。

・執行役員同士が相互評価(ピアレビュー)を年に1回行う。

・10-15程度の評価項目がある。各執行役員は、自分以外のすべての執行役員に対して、その評価項目に沿って5段階評価を行う。よって、(執行役員数-1)人分の評価結果が、全執行役員数分集まることになる。

・集まった合計点数を比較し、点数が下位2名だった者を執行役員から解任する。

・解任された2名に変わり、同社内で人材プールにいる候補の中から2名が次期の執行役員になる。経営者は、自分の意向とは関係なしに、この評価結果に従って人事を行う。

・解任された者は人材プールに入る。そこで実績が認められれば、次期以降に再度執行役員を務める可能性もある。

・一連の評価プロセスは、自社で実行せず、外部の会社に委託して行われている。総務部から委託を受けた外部の会社が、全執行役員に対して連絡をとって評価させ、評価結果も全執行役員から受領する。総務部が必要な書面と手続きを外部の会社に移管して以降、自社内の人物は評価プロセスに関与しない。

これは、なかなかよくできた制度だと思います。Jリーグの入れ替え方式のようなイメージです。同制度のポイントや予想される効果について、次のようにまとめてみました。

・当事者は、自分以外のすべての執行役員に対して評価をする。よって、自分だけ甘めに評価し他者を辛めに評価するなどの評価調整ができない。

・定量評価と異なり、定性評価には「主観」がつきものである。しかし、「主観」も数集まれば「客観」の体をなしたに近しくなることがある。同制度は、それが当てはまるだろうと言える。また、執行役員を任されているぐらいの人材なので、基本的な評価スキルも備えている。

・もし何らかの歪んだ作為があって、特定個人に対する評価だけ不当につけた執行役員がいたとする。しかし、他の執行役員の評価結果と極端に異なる評価結果になっていたとすると、そういう評価をした本人に対する評価能力に疑問符が付いてしまう。この疑問符は執行役員としての能力を疑わせることにもつながるので、そのような行為をけん制する機能がある。

・社員に対しては、人材プールに入る→入れ替わって執行役員になるというルートが見える。経営職を担いたいと考えている社員に対して、動機付けを引き出せる。

・執行役員から人材プールに移動してしまっても、実績を出せばまた戻ることができる(J1→J2、J2→J1)。一度の失敗ですべてを否定するのではなく、再チャレンジを促す風土だというメッセージとなっている。

冒頭で「評価者自身の心情や主観を混ぜ込まずに」と書きましたが、心情が入り込まないようにシステムで担保しているということができます。また、定性評価から主観は完全には排除できないものの、多角的に主観を集めることで客観性を持たせようとしていると言えます。

実際に同社の評価結果を知る方に聞いてみたところ、「全員が評価結果僅差で下位2名が決まるということは、今まであまりない。毎回だいたい、ある人は明らかに全員から高い評価点数を集め、ある人は明らかに全員から低い評価点数を付けられる傾向になる。」ということでした。制度として機能していると言えそうです。

これに似た方法として、管理職者を対象にした360度評価が採用されることがあります。360度評価も有力な方法ではありますが、機能するためには、以下2点が満たされている必要があるでしょう。こうした条件を満たしていないまま360度評価を勢いで導入すると、逆効果になりかねません。

・評価する側(管理職者の部下など)に十分な評価スキルがあること
・心情(「評価したとおりにつけると相手の処遇が心配」という同情や、「評価したとおりにつけると自分に不利益が降りかかってこないか心配」という恐れなど)を混ぜ込まないですむ仕組みになっていること

同社の方法は、一定の執行役員数がないと機能しないなど、他の会社でも同じ方法が取れる状況とは限りませんが、上記2点を満たしたやり方として参考になると思います。

なお、「定性評価は必要ない。最終的な成果で定量的に測れるものだけで評価する」という考え方もあるかもしれません。しかし、先日の投稿「信頼を高めるコミュニケーション」で取り上げたように、成果を生み出すための過程でどのような役割発揮をしていたかを定性的に評価するのは、やはり意義あることだと考えます。

<まとめ>
評価者自身の心情や主観を混ぜ込まずに定性評価ができるような、自社なりの方法を考えてみる。


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