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シンプルイシューで臨む

先日、ある企業様の経営計画会議に出席させていただきました。その場で社長が話していたことが印象的でした。

同社長が強調していたのは、「重点主義」「絞り込み」でした。昨年「3本柱」に掲げていたもののひとつが、目途が立たないと判断し切り捨て、「○○は今日から柱ではなくなった。今後の経営計画には一切記載されなくなる。」というお話がありました。数か月前まで、「その柱を育てるために、今日もこれから協業候補先へ訪問」のようなことを言われていたので、同社長の決断力やスピード感を改めて感じた次第です。

事業戦略もそうですが、部下への指示も重点主義で徹底されています。「指示はせいぜい3つに絞る。それらをKPI化し、計画化して取り組んでもらう。4つ5つもあったら、全部がこける。」のだそうです。ちなみに、同社様は増収増益で、組織風土・社員の状態も良好です。

先般、資生堂が日用品事業を売却する方針を決めたことが話題になりました。利益率が低迷しているとはいえ、TSUBAKIやunoは一世を風靡したブランドです。売却の決断は簡単ではないでしょう。それだけ、事業の選択と集中が重要だということを感じさせます。

理想は「マルチ(多くの、複数の)イシュー・タスクではなく、シングル(1つの)イシュー・タスク」と言われることがあります。考えるべきこと・やるべきことを絞り込もうということです。ただ、1つだけに絞るのはテーマによっては難しいと思いますので、私は「シンプルイシュー」「シンプルタスク」という言い方をすることがあります。1つに絞るのは無理があっても3つ程度の論点や課題に絞る、考えるべきことをシンプルにまとめる、という意味合いです。

ウィルパワー(意志力)という概念があります。私たちが何かを決定するときに使うエネルギーのことです。人が持ちうるウィルパワーは容量が決まっていて、力が限られているのだそうです。そして、ウィルパワーは何かを決定することで消費されていきます。

ケンブリッジ大学の研究によると、人は1日に最大3万5,000回の決断をしているそうです。これには、「今日どんな服を着ようか」「何を食べようか」などの、日々の細かい意志決定も含まれます。こうした細かい意志決定でウィルパワーを消費していくと、大きな意志決定をすべき肝心な場面で思考力が残っていないかもしれません。このことは、個人の単位でも組織の単位でも言えるでしょう。

Facebook創業者のザッカーバーグ氏がいつも同じ服を着る、イチロー氏が毎朝カレーを食べるという話が知られています。これらは、「今日どんな服を着ようか」「何を食べようか」といった細かい意志決定をしなくてよい環境をつくり、もっと大事な場面に備えてウィルパワーを温存するための取り組みだと言えます。

事業や課題の選択・集中の重要性は、企業戦略の観点以外にも、このウィルパワーという切り口からも説明できそうです。課題が増えすぎることで考えるべきことが増え、ウィルパワーが落ちてしまい、40点の出来が5つ(40点×5)になるのであれば、3つに絞ってウィルパワーを高め80点×3にする方がよいでしょう。1つに対する点数は倍になります。

特に中小企業は、大企業にはやりづらい、フットワークあふれる早い意志決定と小回りの利く試行錯誤の行動が、強みになるでしょう。それらを活かすには、戦略上重要な場面で十分なウィルパワーと行動力を投入する必要があると言えます。資生堂でも進めている選択と集中の判断は、その重要性を感じさせます。ましてや中小企業は、「もちうる全経営資源の総力戦」になると大企業には絶対に勝てません。冒頭の企業様のように、シンプルイシューで経営に臨む必要があると思います。

そして、選択と集中は個人の単位でも重要でしょう。
「明日できることは明日に回す」「明日できることを今日のうちに終わらせる」は、どちらも聞く話です。どちらが向いているかはその人の性格やペースなどにもよりますので、どちらが正解ということはないと思います。その上で、私のスタイルは「明日できることを今日のうちに終わらせる」のほうです。

理由は、「明日しようと、忘れないようメモを書いておく」「(明日になったら)今日はやらねばと思い出す」というエネルギーを使いたくないからです。今日のうちに終わらせれば、エネルギーを使わずにすみます。このことは、ウィルパワーを温存するということにつながると思います。

「シンプル イズ ベスト」は、やはりその通りではないかと考えます。

<まとめ>
重点主義で、やるべきことや課題をシンプルに絞り込む。


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