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賃金を取り巻く脱一律の動き

先日、ある企業様の経営方針策定に関する打ち合わせに参加する機会がありました。同社様では、これまでにない異例の、思い切ったベースアップを行うことになりました(具体的な額はここでは控えますが)。

3月18日の日経新聞で、「シャープ、初任給上積み」という記事が掲載されました。
同記事を一部抜粋してみます。

~~2021年の春季労使交渉は17日、大手企業が一斉回答した。新型コロナウイルスで業績が低迷する業種のベースアップ(ベア)の動きは低調だった。一方で、人材の獲得競争が激しくなっているのを背景に初任給を上積みして優秀な若手を囲い込もうとする動きも目立った。コロナ下の業績を反映してベア回答で明暗が出る中、若手の待遇でも企業間の差が広がりそうだ。

シャープは大卒初任給について、組合側の月1500円の要求の2倍となる月3000円を回答した。シャープが所属する電機連合は、初任給の要求額について各社の労組が足並みをそろえ、1500円としていた。競合他社がこの要求に沿って満額回答する中、シャープは独自に金額を上積みし、ライバルとの違いを打ち出した。統一交渉を掲げる電機連合の中でシャープが初任給の引き上げ幅に差をつけたのは、ハードルが上がる有能な人材獲得への危機感からだ。

同日、取材に応じた日立製作所の中畑英信執行役専務は「(職務内容に応じて報酬が決まる)ジョブ型が浸透すれば初任給のあり方も将来、変わっていくだろう」とみる。デジタル人材の採用に力を入れる日立では、人工知能(AI)などの専門技術を持つ人材として今春、約40人が入社するが、一般の新入社員とは異なる給与で処遇する人材もいるという。~~


3月20日は、「賃上げ平均1.81% 春季交渉、連合1次集計」という記事がありました。

~~連合は19日、2021年春季労使交渉の第1回回答集計の結果を発表した。定期昇給と基本給の底上げ部分を示すベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は平均1.81%だった。第1回集計時点で2年連続で2%を割ったものの、新型コロナウイルス禍でも大幅な下落には至らなかった。連合は賃上げの流れは維持されたと評価している。

集計は19日午前10時時点で、663組合に対する経営側の回答状況をまとめた。20年の1.91%(第1回集計時点)に比べ0.10ポイント下落した。定昇を含む賃上げ額は20年より278円減少し、月額5563円だった。ベアと定昇を区別できる286組合でみるとベアの引き上げ率は同0.11ポイント上昇し0.55%だった。~~

賃上げの要素は、大きく定期昇給とベースアップに分けられます。
定期昇給は、会社の賃金規程が定める賃金テーブルに沿って昇給させることです。昇給のルールは、評価結果に応じて額を変える、加齢に伴って一律額を上げるなど、会社によって異なります。定年等による退職者がいて、新卒や中途採用で入社者がいて、その結果人員構成がまったく変わらなければ、定期昇給があっても人件費は理論上全く変わらないことになります。

賃金規程に沿って昇給することは当然と思われるかもしれませんが、経営難の時は昇給を凍結させる時もあります。各社がルール通り定期昇給できているかどうかは、経済の体温を測るひとつのバロメーターになります。

ベースアップは、賃金テーブル自体を書き換えることです。インフレや経済発展が起これば各社の賃金テーブルは書き換えられ増額していきます。あるいは、そうした外部環境が停滞していても、自社の経営が好調で従業員への還元やさらなる人材の引き寄せを目指す会社は、積極的に賃金テーブルを書き換えていきます。

上記2つの記事からは、以下のことが言えそうです。

・コロナ禍もあったが、全体的に賃上げが進んではいる。定期昇給とベースアップの合わせ技である賃上げは、20年と21年でほとんど変わらない見込みである。20年以前には2%を超えていたことがあり、勢いが鈍っていると言えるが、大きな落ち込みでもない。今後も賃上げは中長期のトレンドだと言えるだろう。

・しかしながら、業界ごとの優勝劣敗が明確になってきている。上記も、自動車など業績が回復しつつある産業が全体の平均を押し上げたという要因が大きいと想定される。これまでの日本経済以上に、今後業界間の賃金差は開いていくだろう。

・同業界内でも足並みが崩れてきている。「同業界ならどの会社も同じような賃金」だったこれまでの傾向が、業界内でも今後徐々に会社間で賃金差が開いていくだろう。

・職種間の賃金差もこれまで以上に大きくなるだろう。同じ企業内でも職種によって賃金差が異なることはこれまでもあったが、今後さらに開いていくだろう。特に、デジタル人材などはさらなる好待遇が想定される。

・学卒者の初任給がついに上昇トレンドに入ったかもしれない。学卒者の初任給は、上昇率で言うと、しばらく中堅社員層以上の伸びとなりそうだ。学卒者の初任給は30年近くほとんど変化しなかったが、ここにきて変化が見られる。上記職種間の賃金差も手伝って、「新入社員として入社と同時に、賃金の高さは上から数えた方が速い」という人材も珍しくなくなるかもしれない。

要するに、脱一律の動きとなるということでしょう。
冒頭の企業様は、まず社員全体の賃金底上げによって、外部環境と比較しての魅力度を高める動きだというわけです。

経営側としては、賃金に対してこれまで以上の感度と現状把握を行ったうえで、自社としての的確な判断を求められることになりそうです。

<まとめ>
賃金を取り巻く環境では、想像以上に脱一律の動きが見られる。


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