うちの山百合

うちの庭の隅っこに山百合が咲いていたことを思い出した。

白い6枚の花弁は歪で、
それぞれの先端はあらゆる方向に向かっていた。
質感は絹のよう。
表面には花びらの形に沿って中央に黄色い線が先端に向かい伸びている。

その上に赤黒い斑点が全体に散りばめられていた。
中央には一本の控えめな雌しべと
それを囲う6本の雄しべ。
重みのある朱色の花粉は風に揺蕩っていた。
少しグロテスクだった。

それでも私は山百合が好きだった。

鉢や花壇にお行儀良く植えられている花々や草木と違って、
自由に、ひとりで身勝手に生きてるところが好きだった。
ようこそ、うちにいらっしゃったね。

ある日、
父が苛立ちながらおばあちゃんに文句を言ってるのを見た。

彼の右手にはハサミ、
左手には切られた山百合。
しんなりと下を向いてた。

「あんなところにこんな花があるから、大事なズボンに花粉が付いてしまったよ!除草はちゃんとやってくれよ」

あんなにも美しい存在を、
ズボンごときで奪ってしまったの。

ズボンと山百合どちらが大事だろう。
怒りに任せて消えたもの。
貴い価値、自然、
もう帰ってこない。

私は左手に握られた山百合の
儚げな雌しべをじっと見つめた。

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