fuji255

毎週ショートショートへ投稿中。 (マイペースに投稿してます)

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最近の記事

三日月ファストパス〜コンシェルジュ付き〜

起床すると長い耳を立てた小動物が二足歩行していた。 「おはようございます、ご主人様」 鼻をひくひくと動かす。 「私、三日月ファストパスのコンシェルジュをしております、ユキ・ミニレッキスと申します」 丁寧に頭を下げるユキにベッドに入ったまま会釈した。 「どうも――って、何なんだお前⁉」 「ですから、三日月ファストパスの――」 「その、三日月ファストパスってなんだ?」 「あれです」 ユキはタンスの上にある遺影を示した。 「かあさんが、どうかしたのか?」 「違います。

    • お返し断捨離〜黒スーツの男の話〜

      新年度の時期は書類が大量に届く。 役場が送った断捨離のアンケートの返信があるのだ。 三回にわけて行われるもので、今日はその一回目の処理だ。 内容はパソコンに入力して、断捨離の要不要を選択する。 黒スーツに身を包んだ男たちだけのむさくるしい職場だ。 積み上げられた書類の一枚に目を通す。 得も言われぬ苛立ちが膨れ上がった。 首を振り感情を消す。 この仕事を始める前の記憶は一切ない。 だから、昔の知人がいたとしても感情的になることはないはずなのだが。 この送り主は断捨離が

      • 突然の猫ミーム〜電波ジャック〜

        急に切り替わった画面に唖然とした。 表情豊かな猫に台詞が当てられている。 イヤホンから流れる音声を止めることもできず、ただただ耳を傾ける。 つい先日、ネットで知り合った女性と食事をした光景が脳裏をよぎる。 似ている。 話し方、会話の内容が記憶しているものと、似ている。 いや、この動画はあるあるネタを猫のおもしろ画像で再現するという、猫ミームだ。 誰のことか特定できる内容ではない。 だが、聞きたくない。 イヤホンを外してスマホから顔を上げて更に目を丸くした。

        • レトルト三角関係〜害あるものは排除する〜

          「ちっ」 女性二人が盛り上がる恋バナにイラついて舌を打った。 ヒナタに軽々しくアドバイスする女は許せない。 酔いの回った笑い声が響く店内で接触するのは危険だ。 店を出て別れた女について行く。 下調べは済んでいる。 電車で十分、最寄り駅からアパートまでは徒歩十五分ほど。その内十分は街灯の少ない路地を歩く。 その時がチャンスだ。 ヒナタは幼馴染のツヨシに片想いしている。 ツヨシはユウヤと親友で片想い。 ユウヤはヒナタに恋している。 この関係を見守るのが、会社に行く唯

        三日月ファストパス〜コンシェルジュ付き〜

          〜最高の調味料は空腹〜【洞窟の奥はお子様ランチ】のお題で【冒険小説風】

          「きゃっ!」 「だいじょうぶか!?」 小柄な男の子が滑った女の子の手を取り引き上げる。 「あぶなかったな」 「ありがとう」 滑った先を見ると昼間なのに暗くて先が見えない。 背筋に走った悪寒を感じた少年は、ひとつ呼吸をした。 「いこう。おこさまランチはすぐそこだ」 「うん」 数人の少年少女が汗を流し進んだ先には、子どもほどの大きさの入り口があった。 「あまいかおりがする」 「にくのやけるにおいもするぞ」 「バターのかおりもする」 「こうばしいかおりだな」 ぐうぅと

          〜最高の調味料は空腹〜【洞窟の奥はお子様ランチ】のお題で【冒険小説風】

          〜宇宙より愛をこめて〜【デジタルバレンタイン】のお題で、【SFチックな】ショートショート

          メッセージカードを開くとホログラムが出た。 青年が瞳を潤ませ微笑んでいる。 『愛してる。あと二年はかかるけど、待っててくれ。2020年2月14日。愛する彼女へ』 女性は寂し気に目を細める。 寒空には星が輝いていた。 青年はメッセージカードを開いた。 ホログラムの女性は目を伏せて言いにくそうに口を開く。 『あなたの無事を祈っているわ。愛する彼へ。2021年2月14日』 青年は小さく見える青い地球を見て微笑んだ。 『戻ったら、宇宙服のまま挙式しよう。愛してる。2022

          〜宇宙より愛をこめて〜【デジタルバレンタイン】のお題で、【SFチックな】ショートショート

          【行列のできるリモコン】のお題で、【青春の香る】ショートショート〜コーヒーの香りが消える〜

          閉店の貼り紙を見て思い出した。 車のキーほどの大きさでボタンが三つあるリモコン。 長、短、0。 行列を作ることができるらしい。 父は母といくつも長蛇の列に並んだと嬉しそうに語っていた。 並んでいる間は不思議と会話が弾むそうだ。 今、それはどうでもいい。 お気に入りのカフェの閉店の危機だ。 マスターに会えなくなる。 レポートを書くのに落ち着いた店内が気に入って、マスターが淹れるコーヒーは格別で、マスターが好きだ。 路地裏にあるカフェで常に閑散としていた。 お客さんが

          【行列のできるリモコン】のお題で、【青春の香る】ショートショート〜コーヒーの香りが消える〜

          【ツノがある東館】のお題で、【一行目で惹きつける】ショートショート〜助けは隣に〜

          昼間なのに薄暗く、鴉の鳴き声が響く森の中をさまよっている。 どのくらい歩いただろうか。 青年と少年は蔦のはう洋館に辿り着いた。 彼らは休むことにした。 扉が音を立てて開く。 中の様子を窺いながら、足を踏み入れる。 埃っぽく薄暗い。 ぼんやりと明るさが室内を満たす。 誰もいないのに壁にある蝋燭に火が灯った。 ホール中央にある衝立には羊皮紙が貼られている。 東館には助けを呼ぶためのツノがある。 西館には移動するためのハネがある。 青年は東へ。 少年は西へ向かう。 東

          【ツノがある東館】のお題で、【一行目で惹きつける】ショートショート〜助けは隣に〜

          【アメリカ製保健室】 のお題で、 【どんでん返し】なショートショート~鉄分不足でも扉には要注意~

          まだ現実と夢の境が曖昧だ。 僕の体は意識との一体感がまるでない。 シーリングファンの軋む音が耳に忍び込んでくる。 ぼんやりと見つめていた天井の濃い木目が次第にはっきりとしてきた。 ベッドから上体を起こすと木枠が軋んだ。 針の動く音が響く壁掛け時計は、6限目の始まる時刻を指していた。 カビ臭そうなカーテンを開けて顔を覗かせたブロンドヘアの女性養護教諭が首を傾ける。色白で鼻筋の通った堀の深い彼女は、青い瞳を心配げに揺らす。 「授業に戻るかい?」 言葉のイントネーションが

          【アメリカ製保健室】 のお題で、 【どんでん返し】なショートショート~鉄分不足でも扉には要注意~

          ドローンの課長〜巡回は日課です〜

          「早く終わらせないと来るぞ」 席の近い先輩や同期は、帰宅の準備をして終業時間がくるのを待っている。 同じ課で仕事をしているのは俺も含めて数人だ。 みな必死の形相でパソコンに向かっている。 俺の脳は停止寸前、体が勝手に動いているような状態だ。 社内に終業を知らせる音楽が流れる。 終わった。 周りが次々と席を立つ。 「お疲れ。早く帰れよ」 「ああ。お疲れ様」 同期が肩を軽く叩いて帰って行く。 その背中をすがるように見送った。 残っていた人もすぐに席を立ち出て行く。

          ドローンの課長〜巡回は日課です〜

          会員制の粉雪〜音が舞う〜

          毎日会社と家の往復だった。 歌手になるため上京した。三十歳までにはと思っていたが、オーディションに通過することはなかった。 実家に帰ることも考えたが、諦め悪く東京にいる。 「兄さん、飲みに行かない?」 東京の大手IT企業で働く弟から連絡がきた時、転職を考えている最中だった。 「いいよ」 断る理由はない。だが、気乗りしない。 弟を見ていると自分が惨めになる。 「兄さんも気に入ると思う」 地下にある重々しい扉の前で弟の会員証を見せて中に入る。 眼前に広がる光景と耳

          会員制の粉雪〜音が舞う〜

          夜光おみくじ~惑わされることなかれ~

          初穂料を納めてひとつおみくじを取る。 順路にしたがって進む。 木の柱で囲まれた個室に通されてた。 天井はない。 陽の光が注ぐ中おみくじを開く。 中吉。 無難なことが書かれている。 夢に向かって誘惑に負けず進むこと。 今年は、夢が進歩する年ではないようだ。 だが、努力を惜しめばその分夢が遠のく。 捉え方次第でいい方向にも悪い方向にも捉えることができる。 さすが中吉だ。 読み終えて順路を進むとだんだんと暗くなる通路を通り、最終的には完全に光のない部場所に入った。

          夜光おみくじ~惑わされることなかれ~

          助手席の異世界転生〜妻の子どもになる〜

          「もうすぐ子供が産まれるんだ」 俺はアクセルをゆっくと踏んだ。 小さな女の子が助手席に座っている。長いローブに金色の紋章がついている。見た目は10歳ほどだ。 「よかったな! 妾も祝うぞー!」 少女は祝福の呪文だと言い、聞きなれない言葉を発した。 「これでお主と嫁御とお腹の子はずっと一緒じゃ」 にっと歯を見せて笑う少女は、軽く500年は生きている魔導士なんだとか。 「ありがとう」 会社についてエンジンを止めると少女は消えた。 二週間後、妻を定期検診に連れて行くた

          助手席の異世界転生〜妻の子どもになる〜

          戦国時代の自動操縦~大将の死去が戦の引き際~

          「この歯車を回すと動く……かな」 じじじと小さな音を立てて動き始めた。 小さく拳を握りしめた。 地図をなぞり覚えさせた道を進む仕組みだ。 戦に出て何ヶ月だろうか。 野営で少ない松明の明かりで少しずつカラクリを組み立てた。 元々、カラクリ職人を目指していたが、戦の召集がかかり、師匠の元を離れることになった。 若くて器用なのを買われていたのに、戦に駆り出されることになるとは。 いつ死んでもいいように、作品を残したい。 戦が早く終わるように。 死ななくていいように。 甲

          戦国時代の自動操縦~大将の死去が戦の引き際~

          ごはん杖〜非常食もOK〜

          普段、お目にかかれない物が並ぶ。 目移りするのをぐっと堪えて目的の売り場へ。 友人から聞いたご飯が食べてみたくて、足を運んだ。 友人と一緒に来る予定だったが、あいにく都合がつかず、一人で来ることになった。 初めてなので、マップを見ながら人混みを縫っていく。 迷子になることはないだろうと思っていた。 しかし、いざ現地に到着すると売り場が分からない。あちこち見回していると緑色の制服を着た人が親切に案内してくれた。 一礼して、売り場に熱い視線を送る。 人気の味はすでに売

          ごはん杖〜非常食もOK〜

          親切な暗殺〜酒とナイフ〜

          簡素な依頼だった。 父親を殺してほしい。 暗殺するのに感情はいらない。 ターゲットを殺すだけだ。 顔は見ない。目を合わさない。 物音の響く夜中に音を立てずに部屋へ入る。 アルコールの臭いが充満している。 「うっ……」 鼻と口を押さえる。 部屋の中央に虚ろな瞳で天井を見つめる横になった男性は、侵入者を一瞥した。 「酒はあるか?」 しゃがれた声は、空気が漏れているだけにも聞こえる。 耳を貸せば情が湧く。 ナイフを構えて馬乗りになる。 視線が交わる。 いや、交わ

          親切な暗殺〜酒とナイフ〜