【行列のできるリモコン】のお題で、【青春の香る】ショートショート〜コーヒーの香りが消える〜

閉店の貼り紙を見て思い出した。

車のキーほどの大きさでボタンが三つあるリモコン。
長、短、0。

行列を作ることができるらしい。
父は母といくつも長蛇の列に並んだと嬉しそうに語っていた。
並んでいる間は不思議と会話が弾むそうだ。

今、それはどうでもいい。

お気に入りのカフェの閉店の危機だ。
マスターに会えなくなる。

レポートを書くのに落ち着いた店内が気に入って、マスターが淹れるコーヒーは格別で、マスターが好きだ。

路地裏にあるカフェで常に閑散としていた。
お客さんが来れば、続けるしかなくなる。

だから、長蛇の列を作った。
一時間待ち、二時間待ち。
ようやく入れたカフェは新鮮だった。
忙しいながらもマスターは声をかけてくれる。
それが嬉しくて、何度も行列を作った。

お店が大きくなり、大通りに面した場所に移転すると、マスターはカウンターから出ることがなくなった。

どんなに長い列を待って入っても、目も合わせてくれなくなった。

行列を0にした。

半年と経たないうちにカフェは閉店。
マスターはお店と共に街から姿を消した。

(440文字)

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