『アートにおける臨床的価値を考えるー福祉・医療とアートを繋ぐ13人のインタビューー』(インディペンデント・キュレーター青木彬)

今日はタイトルの書籍を紹介します。書籍といっても、青木彬さんが公益財団法人小笠原敏晶記念財団による調査・研究等への助成(現代美術分野)を受けて行ったインタビュー集ということで、市販されているわけではないです。読んでみたい方はお知らせ頂けましたら差し上げます。(akiko.tajima@sums.ac.jpにメールください)
←こちら私の持ち分はなくなりましたm(__)m青木彬さんに直接お問い合わせください

どんな目的でどのような人にインタビューをしているかですが、青木さんは、ご自身がアートプロジェクトを展開してきたなかで、「アートで救われた」と感じるような経験や気持ちの変化は、事業評価に有効な価値観となるのか、そのような定量評価で測れないことが、定性評価で描き出せるのか、と疑問を持ち、「アートにおける臨床的価値」という視点の可能性を考えるために、福祉・医療分野との関わりを持っている有識者や当該分野とアート協働に取り組む実践者13人にインタビューをしています。13人は以下の人たちです。

・フェンバーガーハウス館長 ロジャーマクドナルド
・「美術待合室」主催/独立行政法人国立美術館国立アートリサーチセンターラーニンググループ研究補佐員 中野詩
・ほっちのロッヂ文化環境設計士 唐川恵美子
・はじまりの美術館 館長:岡部兼芳、学芸員:大政愛
・特定非営利法人チア・アート理事長 岩田祐佳梨
・作業療法士、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会代表理事 林園子
・湘南医療大学保健医療学部・教授 田島明子
・精神科医 かわかみしんたろう
・現代美術家 八幡亜樹
・介護福祉士、障害福祉サービス事業所経営 髙橋誠司
・ホハル代表、アーティスト 滝沢達史
・キュレーション、米国心理療法士 西原珉
・認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ理事長 久保田翠

例えば、はじまりの美術館の岡部さんは、「展覧会をやると人の見え方が全然変わるんですよね。親御さんも見る目が変わって「うちの子こんなこともできるんだね」みたいな嬉しさがあったり。意欲が湧いて次の作品を作ってみとうとか好循環が生まれるようなことがあったので、そういうベースが美術館の開設につながっていると思っています。それに留まらず、障害とか関係なく見に来る方は人の可能性みたいなところをダイレクトに掴んで帰っていくというところがすごくある」と語る。そして、「いろいろなことをクリエイティブに捉えられる感性が養われていたら、そんな障害のあるなしなんて最初から関係なくとらえられるのかな」と。

精神科医のかわかみさんは、インタビューのなかでこんなことを言います。「もちろん、相手のためを思って何かをしていることは多分大事なことだと思うんですけど、相手を良くするためとかってなると、なんとなくどうなんだろう?上手くいかないな?って思ったりするんですよね」

現代美術家の八幡さんは、「私と他者に圧倒的な違いがあるという自覚の上で、それでもどうしたら「人類という観客」とその身体性に到達する作品を作れるのか、それを真剣にやっていくころが作家の仕事じゃないか」と言います。
 
ホハル代表の滝沢さんは、「そういえばこの間、ある福祉施設の方から利用者が作る作品について「彼らを価値に変えるにはどうしたらいいですか?」という質問があったんですけど、その捉え方は危ないなと思っていて。変わらなければ価値にならないということを強要してしまうことになる」。

認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの久保田さんは、「一般の人にとってはアートに誤解がある。だからアートってもっとちゃんと教えるべきだって思っているんです。そもそもアートは人間の色々な事を支えてくれるんだとか、多様性を担保してくれるんだとか、いろいろな価値観があることを知ることになるんだよちか、そういうことをなんで教えないのかなとすごく疑問だったんです」

13人の方たちは、それぞれの経験から見える世界の窓をインタビューによって開かれていて、それが一見、本当に多様で、まずはとても面白い読み物なのですが、最後に青木さんが書いているように、インタビューによってアートの臨床的価値の核心が立体的に立ち上がると同時に、それは既存の価値評価にあてはまらないものなかに、アートを経験する人にとっての深い固有の価値観として成り立っている様が浮かび上がっています。




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